【毛髪再生医療の最前線】毛髪が生え変わるサイクルから、再生医療の可能性について最新知識を徹底解説

薄毛の治療をされている方の中には、「将来自分の毛が再生できるような時代がくるのか」と考えている方がいるかもしれません。現在、毛髪だけではなく、様々な臓器に対する再生医療の研究が多く行われています。ここでは、資生堂と東京医大が行っている毛髪再生医療の確立に向けた臨床研究や、理化学研究所で行われている研究について解説していきます。また、京都大学の山中教授が、ノーベル賞をとったことで話題になった「iPS細胞」を用いた再生医療についても紹介していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01毛髪再生医療の必要性と、生え変わりサイクルから考える再生医療
  2. 02毛髪再生医療の確立に向けた臨床研究
  3. 03京セラと理化学研究所での毛髪再生医療の研究
  4. 04iPS細胞を用いた毛髪再生医療
  5. 05まとめ

毛髪再生医療の必要性と、生え変わりサイクルから考える再生医療

ここがポイント!

  • 毛髪の再生医療は、AGAだけではなくその他の脱毛症の治療にも期待される
  • 毛髪再生医療の方法は大きく分けて2つある
  • 「自分の毛の細胞の一部」を培養して移植する方法と、「iPS細胞」を使う方法

毛髪医療の必要性

脱毛症の原因はたくさんありますが、最も多い原因はAGAであり、約1200万人の方が発症しているとされています。その他の脱毛症を含めると、さらに大勢の方が毛髪になんらかの問題を抱えていると考えられます。「脱毛症」自体は、命に直接関わるような病気ではありませんが、人は社会的な生き物であり、脱毛に対する治療欲求は必然的なものです。

AGAの治療法は確立されつつあり、内服薬(フィナステリド、デュタステリド)、外用薬(ミノキシジル)は医学的根拠を持って有効とされています。しかし、いわゆる対症療法であり、治療を止めると効果が消えてしまいます。現状では、脱毛部分に永続的に毛髪を得るためには、「植毛」以外の方法はありません。AGAの場合、自分の後頭部の毛を移植する「自家植毛」は、ガイドラインでも推奨されている治療方法です。自家植毛は、もともと自分の後頭部に生えている毛髪をそのまま脱毛部へ移動させるだけであり、頭部全体の毛髪量は変わらないため、広範囲に脱毛が及んでいる場合は、治療が難しくなることがあります。そこで、「自分の毛髪の数自体を増やす」という再生医療が登場しました。
また、抗がん剤や放射線治療、感染症などの病気や外傷に伴う脱毛は、毛包が破壊されることで永久的に発毛が見られなくなる場合があります。この状態を瘢痕性(はんこんせい)脱毛症と言います。現状では、手術によって脱毛部分を取り除いたり、植毛を行ったり、かつらを使用することなどで対処されています。このような脱毛症は、小さな子供にも現れることがあり、毛髪再生医療が強く求められる分野でもあります。

毛髪の再生サイクル

髪の毛は、「毛周期」という下記のようなサイクルによって生え変わりを繰り返しています。
正常な毛周期とAGAの毛周期
ここでは毛髪が再生する、より詳しいサイクルについて説明していきます。毛は、休止期が終わると成長期に移行しますが、その際に立毛筋の付着部位にあるバルジ領域というところから、「毛の元になる細胞(上皮系幹細胞)」が毛球に向かって下降してきます。
ただ、この「毛の元になる細胞」だけでは毛は再生されません。毛乳頭という組織から「毛を作れ」という指令が伝達されて、毛は再生サイクルに入ります。また、髪の毛は黒いですが、その色は同じくバルジ領域にあるメラノサイトという「色素性幹細胞」から作られます。つまり、私たちの毛髪は、毛の元になる1つの細胞だけで再生されているのではなく、様々な因子によって作られています。
人工的に髪の毛を再生する方法は、大きく分けて2つあります。自分の髪の毛から採取した「毛の元になる細胞や組織の一部」を培養し移植する方法と、「iPS細胞」を用いて再生する方法です。これから、それぞれの方法について、詳しく説明していきます。

「自分の髪の毛」を用いて再生する方法

まず1つ目の方法として、「自分の髪の毛を増やして移植する」という方法があります。現状、最も実用化に近い方法と考えらえます。この方法で、資生堂と東京医科大学が臨床研究を行っており、また、別のアプローチで理化学研究所が研究を行っています。
具体的な方法としては、後頭部など髪の生えている部分から、頭皮ごと毛を一部採取し、特殊な環境下で培養します。「髪の毛を再生させる作用がある細胞」を増やしたり、「毛の元のになる器官」を作成した後、脱毛部分へ移植し発毛を促す治療法です。

「iPS細胞」を用いて再生する方法

次に2つ目の方法として、京都大学の山中教授がノーベル賞をとって話題になった「iPS細胞」を用いて毛髪を増やす方法があります。iPS細胞とは、人の皮膚の細胞(線維芽細胞という皮膚のコラーゲンなどを作る細胞)から作られた多能性幹細胞のことを言います。様々な組織や臓器の細胞に分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力を持っています。2006年、世界で初めて作製に成功した京都大学の山中伸弥教授がその名前をつけました。毛髪だけではなく、様々な臓器への再生が研究されており、その可能性に大きな期待が持たれています。毛髪の再生についても研究が進んでおり、実用化が待たれています。

「薄毛くらい、気にしなければいいのに」と感じる方もいるかもしれませんが、人の悩みや辛さは実際にその人になってみないとわかりません。様々な悩みや疾患を抱えている人が、再生医療の分野に大きな期待を寄せています。

参考

  • 大山学。多能性幹細胞とreprogramming技術 iPS細胞の毛包への誘導.日本臨林73(5) 193-198.2015

脱毛症診断チェック

毛髪再生医療の確立に向けた臨床研究

ここがポイント!

  • 毛の再生を誘導する細胞(培養ヒト自家毛球部毛根鞘細胞:DSCC)を移植する治療法
  • 実際に、患者さんに治療に参加してもらう臨床研究が行われている

資生堂と東京医科大学皮膚科が協力して、毛髪再生医療の確立に向けた臨床研究がなされています。
患者さんの頭の毛のある部分(後頭部など)から、毛包を含む頭皮を数ミリ程度取り出します。取り出した頭皮組織の中から、ある特定の細胞を取り出します。その細胞は、毛球部毛根鞘(もうきゅうぶもうこんしょう)細胞(dermal sheath cup cell; DSCC)と言われるものです。DSCCは、毛乳頭を囲むように位置しており、毛の再生を誘導する能力が高いことが知られています。DSCCを培養した後、それを脱毛部分へ注入し、毛髪を再生させようとする試みです。
すでに、カナダでDSCCを用いた臨床試験が実施され、プラセボ(偽薬)と比較して、有効であり、重大な有害事象は見られなかったとする結果が出ています。
自家植毛では、広い範囲で頭皮の切除が必要になり、加えて、患者自身の毛髪の総量は増えません。この治療法では、頭皮の切除範囲は狭くすみ、脱毛部の毛包に作用して発毛を促すため、自家植毛より毛髪の総量は増えることになります。また、もともと自分の細胞であったものを移植するため、拒絶反応のような有害事象が起こりにくいとされています。この治療方法は、AGAの男性のみならず、女性のびまん性脱毛症にも効果が期待されます。

参考


京セラと理化学研究所での毛髪再生医療の研究

ここがポイント!

  • 毛の元になる器官(毛包原基)を作成して、移植する方法
  • 毛髪の数自体を増やす事ができ、かつ侵襲性の低い治療として注目されている

髪の毛を作り出す「毛包」は、正常に機能しているときは周期的なサイクルで毛の再生を繰り返しています。毛が作られるときには、毛の元になる細胞(上皮系幹細胞)の他に、その細胞を毛になるように導く細胞(間葉系細胞)が必要です。毛の元になる細胞(上皮系細胞)は、毛のバルジ領域(下図参照)にあり、毛になるように導く細胞(間葉系細胞)は、毛の根元にあります。
理化学研究所は京セラと協力し、これらの細胞の注目して研究を行っています。患者さんから毛を少量取り出し、上皮系細胞と間葉系細胞を抽出し、毛の元になる器官(毛包元基)をたくさん作ります。そして、それを患者さんに移植し、発毛を促すという治療法です。このことはすでにマウスで実証されています。
人の毛包は、毛だけで構成されているわけではありません。立毛筋(鳥肌がたつと、毛が立ち上がりますが、その時に作用する筋肉)や、脂腺などが付いており、これを付属器と言います。上記の方法で作成された「毛包元基」を移植した部分は、周囲の付属器と接続できると言われており、さらに正常な毛周期を繰り返すとされています。また、毛に色をつけるためには、メラノサイトという別の細胞が必要ですが、その元になる「色素性幹細胞」を組み込むことで、色調もコントロールできるされています。2020年までに、人への実用化が目指されています。
DSCC細胞を注入する方法に比べて、毛包自体を移植するので、AGAで弱ってしまった毛包や、毛包が機能せずに脱毛が生じている瘢痕性(はんこんせい)脱毛への適応も期待されています。

参考


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iPS細胞を用いた毛髪再生医療

ここがポイント!

  • iPS細胞を使用すれば、先天的に毛がない患者の治療が可能になるかもしれない
  • iPS細胞を用いた治療は、眼科領域ですでに臨床応用されている

iPS細胞はもともと、皮膚の線維芽細胞というコラーゲンを作る細胞から作成された細胞です。人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)という正式名称であり、理論的には無限の増殖能を持ち、どんな細胞にも分化できます。
そのiPS細胞を用いて、毛を再生させようとする研究があります。これまで示したように、人の毛包は、毛だけではなく立毛筋や脂腺などの付属器があり、毛に色をつけるのには、色素性幹細胞が必要です。iPS細胞からは、毛だけではなくその周囲の付属器などの再生も必要になります。マウスではiPS細胞により、「皮膚」の再生が可能になっており、再生された皮膚には通常の毛包組織が得らています。今後は、それの人への応用が期待されています。iPS細胞による再生医療は、これまでのDSCCや毛包元基を使用した再生医療と異なり、全く毛の組織がないところから再生が可能となるので、先天性に毛のない疾患などへの応用も期待されるでしょう。

すでに平成26年には、患者自身のiPS細胞から作成した網膜の移植に成功しており、平成29年3月には他人(免疫のタイプは同じ)のiPS細胞から作った網膜の移植に成功しています。今後、毛髪を含め様々な組織の再生医療への応用が強く期待されます。

参考

  • iPS細胞|京都大学
  • 大山学 多能性幹細胞とreprogramming技術ips細胞の毛包への誘導日本臨林73巻増刊号5(2015) 193-198

まとめ

AGAを含めた脱毛症で悩んでいる方は多数います。AGAは内服、外用療法を中心に、治療が確立されつつありますが、いずれも対症療法であり、治療をやめると症状が再燃してしまいます。また、その他の脱毛症は、原因が明らかでなかったり、治療法がないような病気もあります。このような現状で、毛髪の再生医療に多くの期待が寄せられています。毛髪の再生医療には大きく分けて、患者さん自身の髪の毛の細胞の一部を用いて、培養後に移植する方法と、iPS細胞を用いて新しい毛を移植する方法があります。いずれもまだ研究段階ですが、臨床応用が可能になれば、永続的に毛髪が得られることになり、脱毛症で悩んでいる方々の大きな希望になるでしょう。
また、脱毛症に限らず、様々な組織で再生医療が研究されており、眼科領域ではすでに実際の治療で使われ始めています。毛髪の再生医療についても、多くの研究がされており、今後の治療に期待が膨らんでいます。

円形脱毛症・前頭脱毛症などの脱毛症でお悩みの方へ

Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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