亜鉛とは
ここがポイント!
- 亜鉛とは、一部の食品の中に含まれている「ミネラルの一種」
- 亜鉛にはタンパク質の合成をサポートする働きがある
亜鉛は、私たちが健康を維持するために必要な栄養素の一つです。
ここでは、亜鉛とはどのような物質なのか、体においてどのような働きをしているのかを紹介します。
亜鉛はミネラルの1種
「亜鉛」は、一部の食品の中に含まれている「ミネラルの一種」です。ミネラルとは、カルシウム、鉄、ナトリウムなど、生体を構成する主要な4元素(酸素・炭素・水素・窒素)以外のものを指します。ミネラルは体内で作ることができないため、食べ物から摂るしかありません。体の健康維持には欠かせない物質なので亜鉛が不足すると「亜鉛欠乏症」となり、さまざまな体調不調が起こる可能性があります。ただし、健康な方が通常の食生活を送っている限り、亜鉛欠乏症の症状が出現する可能性は低いです。また、大量に亜鉛を摂取すると、嘔吐、頭痛、食欲不振、下痢などの症状が現れる場合もありますので、亜鉛が含まれているサプリを摂取する場合には、用法容量を守りましょう。
体における亜鉛の役割
亜鉛は細胞の代謝に関与しており、細胞の生まれ変わりやたんぱく質の合成をサポートする役割があり、私達が生きる上で欠かせない物質です。また、亜鉛には免疫力を高める効果もあるので、風邪薬として販売されているトローチや一部の市販薬にも含まれています。
亜鉛不足で抜け毛が増えるメカニズム
ここがポイント!
- 亜鉛が不足することで、皮膚に炎症が起きやすくなる
- 頭皮で炎症が起こることで、抜け毛の症状が現れる
日本臨床栄養学会が策定している「亜鉛欠乏症の診療ガイドライン」には、亜鉛が不足すると抜け毛の症状が起こると記載されています。ここでは、「亜鉛」が不足するとなぜ抜け毛が増えるのか、そのメカニズムについて解説していきます。
そもそも亜鉛欠乏症とは
亜鉛欠乏症とは文字通り「亜鉛が欠乏することで様々な体の不調が現れる病気」です。欠乏による主な症状には、味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、男性性機能異常、易感染症、骨粗しょう症などがあります。
しかし、誰もが亜鉛欠乏症になるリスクがあるというわけではありません。亜鉛欠乏症を発症するリスクが高い人は、消化器系の手術を受けたことがある人や消化器系の病気を持っている人、菜食主義で肉類を摂取しない人、妊婦や授乳中の女性、アルコール依存症などのように、「体が亜鉛の摂取や吸収を十分にできない状態」や、「亜鉛の損失が増加している状態」にある人です。通常の食事をバランスに気をつけて摂取していれば、発症する可能性は限りなく低くなりますので、健康的な食生活を心がけていきましょう。
亜鉛欠乏症で脱毛が起きるメカニズム
皮膚や髪の毛には、体の中の亜鉛のうち約8%が存在します。体の表面を覆っている「表皮」には、特に亜鉛が多く含まれています。そのため、亜鉛不足になると皮膚の変化や表皮の変化が見られることが明らかになっています。亜鉛不足で皮膚が炎症を起こしやすくなる
亜鉛欠乏症で「脱毛」が見られるメカニズムには、皮膚の炎症が関係していると考えらえています。亜鉛が不足すると、皮膚の炎症を抑える細胞が減少してしまい「炎症」が起きやすくなります。頭皮で炎症が起きると髪の毛を作る細胞もダメージを受けてしまい、抜け毛の原因となるのです。抜け毛は、刺激を受けやすい後頭部から始まり、次第に頭部全体に拡大し、眉毛なども抜ける場合があったり、円形脱毛症を発症したりする場合もあるようです。亜鉛欠乏症に治療法はあるのか
亜鉛欠乏症の治療法には、欠乏している亜鉛を飲み薬で補充する方法があります。投与量は、年齢や体重などで異なります。また、亜鉛投与の副作用として、吐き気、腹痛、血清膵酵素の上昇、貧血、白血球減少なども報告されています。最近では、2017年3月に酢酸亜鉛製剤である「ノベルジン」という薬が「低亜鉛血症」でも処方可能となり、亜鉛製剤の適応が拡大してきています。
不足すると抜け毛の原因となる、その他のミネラル
ここがポイント!
- AGAや円形脱毛症の診療ガイドラインには、貧血と脱毛の関連性について記載されておらず、鉄不足による貧血で抜け毛が生じる医学的根拠は乏しい
- しかし、貧血によって髪の毛や頭皮に十分な酸素が届かず、成長や健康に影響を与える可能性はある
- セレン欠乏症では、脱毛が現れる可能性がある
亜鉛以外にも、不足すると抜け毛の原因となるミネラルはあるのでしょうか。
ここでは、「鉄」と「セレン」について、それぞれ不足すると抜け毛の原因になるのかを解説していきます。
鉄
鉄が不足すると、「鉄欠乏性貧血」を発症する可能性があります。AGAの診療ガイドラインや円形脱毛症の診療ガイドラインには、貧血と脱毛の関連性についての記載はありません。そのため、貧血が直接的に抜け毛の原因となる医学的根拠は乏しいです。しかし、貧血によって酸素を運搬する能力が低下することで、髪の毛に十分な酸素が行き渡らなくなります。髪の毛は、頭皮の毛細血管から成長に必要な栄養や酸素を取り入れているため、間接的に髪の毛の成長に影響を与えてしまう可能性はあります。
ここでは、貧血に効果があるとされる食品をいくつか紹介するので、毎日の食生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
<貧血に効果があるとされる栄養素>
成分 | 豊富に含まれている食品 |
---|---|
鉄分・タンパク質 | 牛肉やレバー・カツオなどの赤身の魚・あさりなど |
ビタミンC | 緑黄色野菜・果物など |
葉酸 | ホウレンソウ・アスパラガス・ブロッコリー・納豆など |
ビタミンB12 | レバー・魚介類・チーズなど |
セレン
セレンはミネラルの一種で、人の健康を維持するためには欠かせない物質です。セレンが不足して「セレン欠乏症」を発症すると、「爪白色化、爪変形、皮膚炎、脱毛、毛髪の変色などの皮膚疾患」が生じる可能性があります。皮膚症状以外にも、心臓、筋肉、赤血球など体の様々な箇所に異常を来たす場合もあります。
セレンは「魚介類、肉類、卵、および北米産小麦を原料とするパン,パスタ,中華麺など」に豊富に含まれています。セレンが極端に不足すると脱毛症状が起こる可能性は否定できませんので、これらの食品を献立に取り入れる工夫をしましょう。
セレン欠乏症の診療指針2015には、セレンの食事摂取基準を18歳以上の成人男性で30mg/日、女性で25mg/日と記載されています。ちなみに、まぐろには100gあたり110㎎、牛肉には100gあたり20㎎のセレンが含まれていますので、肉や魚で十分な量のセレンを摂取することができます。
また、セレンを摂取したいからといって、サプリメントなどで過剰摂取をすると、嘔気、嘔吐、腹痛、神経系の障害や様々な内臓疾患を引き起こす可能性があるとされています。
体に必要な栄養素でも過剰に摂取すると、悪影響を及ぼす恐れがあることを心得て起きましょう。栄養素は、必要な量を摂取することが重要です。

過度なダイエットは亜鉛不足につながる
ここがポイント!
- 亜鉛は牡蠣、肉類、豆類などに多く含まれており、バランスよく食事を摂取していれば不足する可能性は低い
- 亜鉛は体に蓄えることが出来ない栄養素なので、過度なダイエットで食事制限や絶食をしていると亜鉛不足に陥る可能性がある
厚生労働省の「統合医療」情報発信サイトには、1日における亜鉛の推薦摂取量は、18〜69歳の男性で10mg、女性で8mgとされています。特に、牡蠣は亜鉛を豊富に含んでいます。カキフライには、1個(約28g)あたり約25mgの亜鉛が含まれています。牡蠣以外にも、亜鉛は肉類や豆類などさまざま食品に含まれており、バランスよく食事を摂取していれば、不足する可能性は低いと言えます。しかし、過度なダイエットにより食事制限や絶食を続けていると、体に蓄えることが出来ない亜鉛は徐々に減少していき、亜鉛不足に陥る恐れがあります。
女性は産後も亜鉛不足に気を付けて
ここがポイント!
- 妊娠中や授乳中は、赤ちゃんの成長や発達に亜鉛が必要なので推薦摂取量が増える
- 亜鉛不足にならないよう、注意が必要である
妊娠中や授乳中は、赤ちゃんが十分に成長・発達するために亜鉛が必要になります。その証拠に、日本人の食事摂取基準2015には亜鉛の推薦摂取量について、「12歳〜69歳の女性では8 mgですが、妊娠中は11 mg、授乳中の女性は12 mg」と、妊婦と授乳中の女性には多く摂取するよう記載されています。女性の場合は、妊娠、出産後に亜鉛の推奨摂取量が増えるので、亜鉛不足にならないように、バランスの取れた食生活を心がけることが重要です。

亜鉛サプリは抜け毛に効果的か
ここがポイント!
- サプリには明確な定義や基準がなく、その効果は医学的に証明されていない
- 亜鉛を含んだサプリを摂取しても、抜け毛の予防や改善に直接効果があるという医学的根拠はない
亜鉛を含んだサプリを摂取することで、抜け毛の予防や改善に直接効果があるという医学的根拠は、現在のところ得られていません。しかし、ここまで説明してきたように「亜鉛」はタンパク質の合成に関与しており、髪の毛の成長には欠かせないミネラルです。
サプリメントに明確な定義はありませんが、医薬品とは違い病気の予防や改善効果はありません。サプリメントを利用したい場合は、あくまでも、髪の毛や頭皮の健康をサポートするための補助的な役割である事を理解しておく必要があるでしょう。
亜鉛が豊富に含まれる食べ物
ここがポイント!
- 牡蠣、赤身の肉、鶏肉、カニ、豆類、ナッツ類などに豊富に含まれている
髪の毛の約90%は「ケラチン」というタンパク質で出来ています。亜鉛には、抜け毛を予防したり改善したりする効果はありませんが、タンパク質の合成に関与しているため、亜鉛を摂取することで髪の毛の成長をサポートする事は出来ます。
「亜鉛」は、牡蠣、赤身の肉、鶏肉、カニ、豆類、ナッツ類などに豊富に含まれています。しかし、亜鉛ばかりを過剰に摂取しても意味がありません。食事のバランスに気をつけ、日々の献立の中に上記の食品を取り入れてみてはいかがでしょうか。
また、亜鉛の他にも「タンパク質」「ビタミンB群」は、髪の毛の成長をサポートする栄養素です。「タンパク質」は、肉、魚、卵、大豆などに、「ビタミンB群」は、レバー、大豆、卵、サバ、カツオ、肉などに豊富に含まれています。これらの食品もバランス良く摂取するように心掛けましょう。


まとめ
亜鉛は、私たちが健康を維持するために必要な栄養素の一つであり、極端に不足すると抜け毛の原因になります。亜鉛は様々な食品に含まれているため、過度なダイエットや偏食などをしない限り、不足することは少ないとは言えます。女性の場合は、妊娠や出産後の授乳期にはより多くの亜鉛の摂取が必要になります。しかし、亜鉛を摂取することで抜け毛の予防や改善に効果があるという医学的根拠は得られていません。加えて、過剰に摂取すると健康を害する可能性もあります。どのような栄養素も必要な量を摂取することが好ましいです。ここで紹介したように、亜鉛は多くの食品に含まれているので、バランスの良い食生活を心掛けていれば十分に摂取する事が出来ます。日頃の食事内容を見返してみてはいかがでしょうか。