【妊娠糖尿病とは】原因・症状・対策などを徹底解説します

「妊娠糖尿病」は、妊娠中に注意しなければならない病気です。妊娠糖尿病を発症するのは、妊婦の7〜9%、つまり8人に1人。決して珍しい病気ではありません。この病気の怖いところは、母体だけでなく、おなかの赤ちゃんにもさまざまな影響を与えてしまうところです。妊娠糖尿病とはいったいどのような病気なのでしょうか?また、どのように対策をすれば良いのでしょうか?詳しく解説していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01「妊娠糖尿病」とは?
  2. 02妊娠糖尿病の診断
  3. 03母体とおなかの赤ちゃんに高血糖が与える影響
  4. 04妊娠中に気をつけるべきこと
  5. 05産後に気をつけるべきこと
  6. 06 まとめ

「妊娠糖尿病」とは?

ここがポイント!

  • 妊娠糖尿病は、妊娠して初めて発見された「糖代謝異常」
  • 妊娠中は高血糖になりやすい
  • 妊娠糖尿病になりやすい10の条件がある

「糖尿病」という病気を聞いたことのある人は多いと思います。糖尿病の多くは、さまざまな理由で血糖値が高くなってしまう「生活習慣病」です。一方で、「妊娠糖尿病」という病気は、男性や妊娠の経験がない人には、あまり知られていない病気なのではないでしょうか。「妊娠糖尿病」は、妊娠前には糖代謝に異常がなかった人が、妊娠中に初めて発見された「糖代謝異常」のことです。「糖代謝異常」とは、糖尿病と同じく、血糖値が高くなっている状態ですが、糖尿病と診断される基準よりも低い状態で「妊娠糖尿病」と診断されます

「妊娠糖尿病」は、英語名の頭文字を取ってGDM(Gestational Diabetes Mellitus)と呼ばれる場合もあります。

体内に取り込まれた食べ物は、ブドウ糖などのエネルギー源に形を変えて血液中に流れます。ブドウ糖は、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンによって、全身の細胞に運ばれていきます。このインスリンの機能がうまく働かないと、運びきれなかったブドウ糖が血液中に残り、高血糖の状態となってしまいます。

妊娠中は母体と胎児をつなぐ「胎盤」から、インスリンの働きを妨げてしまう「エストロゲン」、「プロゲストロン」、「ヒト胎盤ラクトゲン」などの「インスリン拮抗ホルモン」が分泌されるため、血糖値が上昇しやすい状態になっています。

この働きは、おなかの赤ちゃんにたくさんの栄養を送ろうとする母体の反応です。おなかの赤ちゃんのために、食事で摂取する栄養だけでなく、母体が蓄えている脂肪を分解して、ブドウ糖を作ろうとする働きも促進されます。一方で、母体はインスリンの分泌を促進して血液内のブドウ糖のバランスを調整しようとします。ところが妊娠中の過食など、さまざまな理由により、ブドウ糖の産生と消費のバランスが崩れると「糖代謝異常」が起こり、「妊娠糖尿病」になってしまうのです。
妊娠中は血糖値が上がりやすい状態

日本糖尿病・妊婦学会は、妊娠糖尿病になりやすいリスクファクターとして以下のような条件を挙げています。

【1】 糖尿病の家族歴がある
【2】 肥満(妊娠後に急激に体重が増加した)
【3】 35歳以上の高年齢妊娠
【4】 巨大児分娩既往(4000g以上)
【5】 原因不明の習慣性流早産歴
【6】 原因不明の周産期死亡歴
【7】 先天奇形児の分娩歴
【8】 強度の尿糖陽性もしくは2回以上の反復する尿糖陽性
【9】 妊娠高血圧症候群
【10】 羊水過多症

妊娠前からすでに糖尿病と診断されている場合や、妊娠中に「明らかな糖尿病」(overt diabetes pregnacy)と診断された場合は、「糖尿病合併妊娠」に区別され、「妊娠糖尿病」には含まれません。糖尿病合併妊娠は、妊娠糖尿病よりさらにリスクが高い状態であるため、より厳重な管理と注意が必要となります。

すでに糖尿病と診断されている場合は、妊娠により症状が悪化する可能性が高くなり注意が必要です。また、妊娠中に「明らかな糖尿病」(overt diabetes pregnacy)と診断されるのは、妊娠初期、中期で実施する「妊娠糖尿病」のスクリーニング(検査)などで、「妊娠糖尿病」の判定基準より高い結果であり、さらに「糖尿病」の診断基準を満たす状態であった場合です。

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妊娠糖尿病の診断

ここがポイント!

  • 妊娠糖尿病の検査は、妊娠初期と中期の検診で行われる
  • 妊娠糖尿病は、空腹時血糖測定とブドウ糖負荷試験で判定される

日本産科婦人科学会では、妊娠初期とインスリン抵抗性の高まる妊娠中期に「妊娠糖尿病」に対してのスクリーニング(検査)を実施することを推奨しており、この検査は妊娠中に定期的に受ける妊婦検診で実施されています。具体的には採血検査により随時時血糖値(食事に関係なく測定した血糖値)が100mg/dL以上の場合や、糖代謝異常の危険因子を持つ場合にブドウ糖負荷試験が行われます。
妊娠糖尿病の診断
ブドウ糖負荷試験とは、空腹時にブドウ糖を飲んで人工的に血糖値を上げ、その前後の決められた時間に採血をして血糖測定を行うことにより、血糖値の変化を測定する検査です。妊婦検診などのスクリーニングでは、50gのブドウ糖を飲んで検査するのが一般的です。これらの検査で妊娠糖尿病の危険があると判定された人は、さらに75gのブドウ糖を飲む「75gブドウ糖負荷試験」を実施し、最終的に妊娠糖尿病であるかどうかの判定をおこないます。75gブドウ糖負荷試験で、①空腹時血糖値≧92mg/dL、②1時間値≧180mg/dL、③2時間値≧153mg/Llの基準のうち、どれか1つにあてはまれば、「妊娠糖尿病」と診断されます。
妊娠検診で行われるブドウ糖負荷試験とは

「妊娠糖尿病」は2010年に診断基準が改定になっています。以前は上記の3項目のうち2つに該当することが診断条件になっていましたが、より母体や胎児の安全性を考えて、現在の基準へと変更されたのです。

妊娠初期の検診で大丈夫だった人も、油断してはいけません。妊娠が経過するにつれて、「インスリン拮抗ホルモン」などの働きも活性化しします。このため妊娠中期(24週〜28週)でも再度スクリーニング(検査)をすることが推奨されているのです。「妊娠糖尿病」と診断されるのは、妊婦の7〜9%とされています。また妊婦検診は妊婦であれば誰でも受けることのできる検診です。妊娠によるさまざまな身体の変化をフォローし、安全に出産を行うために、また生まれてくる赤ちゃんの安全のためにも、妊婦検診は必ず受けて、異常があれば早期発見、危険な状態であれば改善につとめましょう。

母体とおなかの赤ちゃんに高血糖が与える影響

ここがポイント!

  • 妊娠糖尿病は、自覚症状がほとんど無い
  • 妊娠糖尿病は、母体にもおなかの赤ちゃんにも影響を与える

「妊娠糖尿病」は、母体だけでなく、おなかの赤ちゃん(胎児)にもさまざまな影響を及ぼしてしまいます。また初期の段階では自覚症状がほとんどないのも問題です。進行すると「喉が乾く」「おしっこの回数と量が増える」「疲れやすい」といった自覚症状がでてきますが、妊娠の影響で同様の症状が出る場合もあるため、自覚症状で「妊娠糖尿病」を見分けることは難しいといわれています。

高血糖の状態が続くと、妊娠高血圧症候群、羊水過多、胎盤早期剥離、難産、流産、早産、網膜症、腎障害などの合併症を引き起こす可能性が高くなります。また、妊娠中に妊娠糖尿病と診断されてしまった人のうち、4人に1人は出産後から将来に向けて、糖尿病になる可能性があるといわれています

妊娠糖尿病に並び、「妊娠高血圧症候群」も妊娠中に注意すべき病気の1つとして注目されています。妊娠高血圧症候群は、血圧の上昇や、タンパク尿の有無が診断の基準になります。症状が進行すると、脳出血の可能性があるほか、肝臓や腎臓などにも障害を与えてしまう可能性が出てきます。命に関わる状態にもなり得るため、注意が必要であると言われている病気ですが、その原因の1つとして考えられているのが「妊娠糖尿病」なのです。

妊娠糖尿病は、おなかの赤ちゃんに対してはどのような影響があるのでしょうか。
胎児はおなかの中で少しずつ成長していきます。成長している途中で母体の高血糖状態が続くと、胎児の発育に対してさまざまな影響が出てしまいます。例えば、出産時に4000gを超える「巨大児」になってしまう可能性が高くなります。大きく成長してくれることはうれしいことではありますが、「巨大児」は出産時に難産になってしまう可能性が高くなります。

高血糖は、成長途中の胎児に影響を与えるので、「先天奇形」のリスクも高くなります。特に妊娠初期での血糖コントロールが悪いと、「先天奇形」のリスクは高くなるといわれています。奇形のリスクがあるのは、骨格、神経、心血管、様々な臓器や器官だといわれています。

また高血糖状態が続くと、胎盤の血流などが低下してしまう場合もあります。胎盤の血流低下は、胎児の発育を邪魔してしまう可能性があります。その結果起こるのが「子宮内発育遅延」、「胎児ジストレス」です。

さらに妊娠糖尿病は、出産後の新生児にも影響があります。例えば、呼吸障害、低血糖、低カリウム血症、多血症、高ビリルビン血症、心不全などのリスクが高くなると知られています。
高血糖が母体と赤ちゃんに与える影響
このように、「妊娠糖尿病」は母体だけでなく胎児や生まれてきた赤ちゃんにもさまざまな影響を及ぼしてしまう可能性がある病気です。また、お母さんは、出産後も妊娠糖尿病の影響が続いてしまい、将来的に糖尿病を発症する可能性が高くなると知られています。安全に出産し、出産後にも健康を保つために、「妊娠糖尿病」は本当に気をつけなければならない病気であると言えるのです。

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妊娠中に気をつけるべきこと

ここがポイント!

  • 妊娠糖尿病予防のためには、食事を1日に6,7回に分けるのが効果的
  • 過食に気をつけてバランスの良い食事を心がけよう!

妊娠糖尿病にならないために、最も大切なことは「血糖管理」です。食前の血糖値は100mg/dL、食後2時間の血糖値は120mg/dLを目標に管理することが推奨されています。妊娠中は運動による消費カロリーのコントロールや運動療法を行うことが比較的難しいため、「食事」によるコントロールが重要になります。状態によっては薬物による血糖のコントロールがおこなわれますが、基本となるのは「食事療法」です。

妊娠中は食欲も上がってくるため、つい食べ過ぎになりがちですが、1日の摂取カロリーは1600kcalを目標にします。カロリーを取り過ぎないために最も効果があるといわれているのが、1日6〜7回に分けて食事をすることです。食事を数回に分け、1回の食事量を減らすことで、食後の血糖値が大きく上がらないことを期待するというわけです。

また、食事の質にも注意をする必要があります。妊娠中は、母体にも胎児にもバランスよく栄養補給をおこなうことが大切です。偏った食事ではなくて、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、野菜を中心とした、ヘルシーでバランスの良いメニューで食事をするように心がけましょう。中でも鉄分、カルシウム、葉酸、タンパク質は、胎児の成長のために必要不可欠な栄養素です。しっかりと摂取するように心がけましょう。また、「食物繊維」は「妊娠糖尿病」の原因となる「ブドウ糖」の吸収を緩やかにして、血糖値の急激な上昇を防ぐといわれていますので、こちらも摂取するように心がけましょう。一方、なるべく控えた方が良いのされているものは「塩分」です。過度な塩分は、「妊娠高血圧症候群」の原因にもなりますので、注意しましょう。

妊娠中は、体重管理にも注意しなければなりません。体重の管理は妊娠前の母体の状態により異なりますが、一般的には、出産直前で7〜12kgの増加までに抑えることが目標とされています。母子ともに状態が安定しており、主治医の許可がもらえるのであれば、体重管理のために、ウォーキングなどの無理のない運動をするのも良いでしょう。

産後に気をつけるべきこと

ここがポイント!

  • 妊娠糖尿病の人は産後の糖尿病発症リスクが高くなる
  • 母乳を子供に与えると糖尿病のリスクを減らすという研究報告も

「妊娠糖尿病」と診断された場合には、出産後6〜12週後に、再度ブドウ糖負荷試験をおこない、血糖値の確認を行うよう推奨されています。このときに血糖値が正常値に戻っているようであればひとまず安心といえますが、これまでの研究により、妊娠糖尿病になった人は、妊娠後の糖尿病の発症が高くなるということが分かっています。日本産科婦人科学会では、妊娠糖尿病になった人はならなかった人に比べて、将来的に糖尿病になる確率が約7倍高くなると示し、注意を促しています。出産後も引き続き生活習慣などに注意するとともに、定期的な健診を受けるようにしましょう。

また、日本糖尿病・妊婦学会によれば、産後に母乳を与えた場合、母親も子供も将来の糖尿病のリスクが減るという研究報告があるとされています。母乳は積極的に与えるようにしましょう。

薬で血糖値をコントロールしている人は、授乳中や授乳後の「低血糖」に注意しましょう。100mLの母乳を授乳すると、約80kcalを消費するといわれています。そのため、出産後は出産前に比べて消費するカロリーが増えるということになります。これを踏まえ、摂取するカロリーを増やしたり、薬剤のコントロールを相談したりするなどの対策をしましょう。

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まとめ

妊娠糖尿病は、妊娠中に初めてわかったまたは発症した糖代謝異常です。妊娠糖尿病は、妊娠中に悪い影響を及ぼすだけの病気ではなく、出産後も、母体にも子供にもさまざまな病気のリスクを上げるなど、影響を与える可能性のある病気です。妊娠中は体の中で実にいろいろな変化が起こります。その変化一つ一つを自分自身で感じることは、なかなか困難です。必ず定期的な妊婦検診を受診し、母子ともに安全で健康的な状態を維持できるように心がけていきましょう。

出産後に特に注意したいのは、「妊娠糖尿病」が出産後の「糖尿病」の発症に大きく関係していることです。「妊娠糖尿病」の人は産後わずか3〜6カ月の段階で5.4%が糖尿病になっており、さらに、全体の25%(4人に1人)は何らかの耐糖能異常が見られるという報告もあります。出産が終わったから血糖コントロールも終わりとするのではなく、ぜひ産後も定期的な健康診断を受け、生活習慣を整えていくよう心がけましょう。

妊娠糖尿病は多くの妊婦が発症する病気である一方で、正しい知識をもって対策を行えば、母体や胎児への影響を抑えることのできる病気です。自分自身のために、また生まれてくる子供のためにも、しっかりと対策をおこない、健康的な妊娠生活を送りましょう。

参考

日本産科婦人科学会:妊娠糖尿病
日本糖尿病・妊婦学会:糖尿病と妊娠に関するQ&A

Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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