【GLP-1受容体作動薬】インスリンではない糖尿病の注射薬の効果と副作用とは

食べ過ぎ、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣が原因で発症する「2型糖尿病」は、現代社会で生きる日本人にとっては、切っても切れない関係にある病気の1つと言えるでしょう。そんな2型糖尿病の治療の基本となるのは「食事療法」と「運動療法」、そして「薬物療法」です。従来から使われている飲み薬やインスリン療法に加えて、近年新しく出た薬が、インスリンの分泌を増やすホルモンである「インクレチン」の働きに注目した「GLP-1受容体(GLP1R)作動薬」です。
新しい薬であるため、まだ情報も少なく、これから使用する人は、薬への期待とともに不安も抱えているかも知れません。ここで一緒にGLP-1受容体作動薬についての知識、理解を深めていきましょう。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01GLP-1受容体(GLP1R)作動薬の正体、「インクレチン」とは
  2. 02GLP-1って何のこと?
  3. 03GLP-1受容体作動薬が効くメカニズム
  4. 04GLP-1受容体作動薬の種類
  5. 05GLP-1受容体作動薬のメリットとは
  6. 06GLP-1受容体作動薬の副作用と注意点
  7. 07まとめ

GLP-1受容体(GLP1R)作動薬の正体、「インクレチン」とは

ここがポイント!

  • インクレチンは、高血糖のときだけ働く
  • インクレチンは、インスリンの分泌促進とグルカゴンの分泌抑制を促す消化管ホルモン
  • インスリンの異常だけでなく、「グルカゴン」の分泌が多すぎても血糖値が高くなる
  • 「GLP-1受容体作動薬」という注射薬は、インクレチンの作用に注目して作られた糖尿病の新しい薬

「インクレチン」は、食事を取った際に、主に十二指腸や小腸などの腸管から血液中に分泌される「消化ホルモンの総称」です。インクレチンは、膵臓のβ細胞に働いて、血糖値を下げるインスリンの分泌を促します。また、膵臓のα細胞にも働いて、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑制します(膵内作用)。

インクレチンの、インスリンの分泌を促す作用と、グルカゴンの分泌を抑える作用は、血糖値が高い時だけに働きます。つまり、インクレチンは、高血糖時に血糖値を安定させる作用を持っており、血糖値が良好にコントロールされている時には働かないのです。

糖尿病は、高血糖となることでさまざまな合併症や症状がもたらされる病気ですが、高血糖となる原因は主に以下の3つです。

1. 血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌量が少ない場合
2. インスリン抵抗性によってインスリンの効き目が悪い場合
3. 血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌量が多すぎる場合

「インスリンの分泌量低下」と「インスリンの働きが悪くなること」についてははよく知られていますが、実はインスリンの分泌に伴って、グルカゴンが分泌されることで血糖値のコントロールが保たれているのです。糖尿病の人は、このインスリンとグルカゴンの双方の分泌による血糖コントロールが上手く行きません。高血糖となっていてもグルカゴンの分泌量が減らないばかりか、反対に増えることもあり、血糖コントロールが不良となります。

インスリンの分泌量が少ないことに対しては、食事療法で血糖そのものを抑えることや、足りないインスリンを補う治療、インスリンの効き目が悪い場合には、運動や薬でインスリンの効き目をよくする治療が行われてきました。しかし、グルカゴンに対する有効な治療はありませんでした。

そこで、注目されたのが高血糖の時にだけ、インスリンの分泌を促す作用に加えて、グルカゴンを抑制する作用を持つインクレチンの働きです。GLP-1受容体(GLP1R)作動薬は、インクレチンのそんな作用に着目して作られた新しい糖尿病の薬なのです。

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GLP-1って何のこと?


ここがポイント!

  • GLP-1は、インクレチンの1種
  • GLP-1には、インスリンの分泌促進作用とグルカゴンの分泌抑制作用がある
  • GLP-1には、腸管での血糖の吸収時間を遅らせたり、食欲を抑えたりする作用もある

インクレチンは、食後に分泌される消化管ホルモンの総称だと説明しました。現在知られているインクレチンは、「GLP-1(glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド-1)」と「GIP(gastric inhibitory polypeptide:グルコース依存性インスリン分泌刺激 ポリペプチド)」の2種類です。

GLP-1は、炭水化物やタンパク質を取ることで、小腸の下部に存在する「L細胞」という細胞から分泌されます。分泌されたGLP-1は、膵臓のβ細胞に作用して、血糖値を下げる働きを持つインスリンの分泌を促すほか、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞そのものの数も増やします。さらに、膵臓のα細胞に作用して、血糖値を上げる作用をもつグルカゴンの分泌を抑えるようにも働きます。膵臓への作用の他にも、胃に働いて、腸へ食べ物が送り込まれる時間を遅らせる作用や、中枢神経系に働いて、食欲を抑える作用も持っています。


GLP-1の作用とは

一方、GIPは、十二指腸、小腸の上部に存在する「K細胞」という細胞から分泌されます。GIPは特に、脂質が摂取された場合に分泌されやすいという特徴があります。GIPは、膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促すほか、食事から取ったエネルギーを効率良く脂肪細胞に蓄積させる作用を持っており、体脂肪量の増加や体重の増加に働いています。

GIPは、実際に糖尿病の人が注射しても血糖値の上昇を抑える効果が少ないことと、脂肪を蓄積して脂肪量を増加させるという働きがあることから、肥満を解消したい糖尿病患者の血糖コントロールにはGLP-1が選択されています。

「GLP-1受容体(GLP1R)作動薬」は、ズバリGLP-1そのものと同じ効果を持つ薬です。GLP-1が持つ、「インスリン分泌の上昇」「グルカゴン分泌の抑制」「血糖が腸管に吸収される時間を遅らせる」「食欲を抑える」「総合的に血糖値の上昇を抑える」という効果に着目され、開発された薬なのです。

GLP-1受容体作動薬が効くメカニズム

ここがポイント!

  • GLP-1受容体作動薬は、基本的にGLP-1と同じ効果を持つ薬
  • GLP-1そのものよりも、分解されにくく作用が強くなるように改良された薬
  • GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い場合にのみ作用する

膵臓のβ細胞は、血中のブドウ糖(グルコース)の濃度が上がる、つまり、血糖値が上がるとインスリン分泌のスイッチが入るという仕組みになっています。この仕組みをもう少し詳しく見てみましょう。

ブドウ糖を運ぶ役割を持つタンパク質の「GLUT2」によって、ブドウ糖が膵臓のβ細胞の中に取り込まれると、取り込まれたブドウ糖は、細胞を構成している「細胞質」や「ミトコンドリア」と呼ばれる小器官の中でエネルギーとして使いやすい形の「ATP」という物質に変換されます。

変換されて作られたATPの濃度が上がると、「ATP感受性カリウムチャネル」という、いわゆる細胞と内部と外部をつなぐドアのようなものが閉じます。すると、それが引き金となって「電位依存性カルシウムチャネル」という別のドアが開きます。するとそのドアを通って、細胞外から細胞内にカルシウムイオンが流れ込み、細胞内のカルシウムイオン濃度が高くなります。すると、インスリンの分泌が生じます(惹起経路)。これが、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が上がると、インスリンがβ細胞から分泌される仕組みです。

次にGLP-1がβ細胞に働く仕組みを見てみましょう。食後にGLP-1が分泌されると、膵臓のβ細胞の表面に存在してGLP-1を受け止める「GLP-1受容体」というタンパク質に結合します。すると、β細胞の中で「アデニル酸シクラーゼ(AC))という酵素が活性化します。ACは、先ほど説明したエネルギー源のATPを「cAMP」という形に変化させます。ACの働きで、細胞内のcAMP濃度が上がると、結果的に「電位依存性カルシウムチャネル」が開きます。後はブドウ糖のときと同様に、細胞内のカルシウムイオン濃度が高まってインスリン分泌が起こります(増幅経路)。

ここで重要なのは、GLP-1は、血糖値の上昇によってインスリン分泌が起こる「惹起経路」が生じていない時には作用しないという点です。すなわち、GLP-1は、血糖値が高い場合のみに作用して、血糖値が正常の場合や低い場合には作用しないのです。

体内のGLP-1は、腸管から分泌されるとわずか1~2分の間に、体内に存在するDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という分解酵素によって分解され、消えてなくなってしまいます。GLP-1の作用時間は非常に短く、分泌されたGLP-1の量に比べて効果も少ないのです。

そのため、GLP-1の作用を保ったまま、DPP-4によって分解されにくいように手を加えて、長い時間作用を保てるように改良して開発されたのが、「GLP-1受容体(GLP1R)作動薬」です

GLP-1受容体作動薬が効く仕組み
インクレチンの作用に注目した新しい糖尿病治療薬は、GLP-1受容体作動薬の他にも、GLP-1が体内で分解されないためにDPP-4の働きを邪魔する薬(DPP-4阻害薬)があります。


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GLP-1受容体作動薬の種類

ここがポイント!

  • GLP-1受容体作動薬は皮下に注射する注射薬
  • リラグルチド(ビクトーザ)、エキセナチド(バイエッタ、ビデュリオン)、リキシセナチド(リキスミア)、デュラグルチド(トルリシティ)がある
  • リラグルチド、リキシセナチド、デュラグルチドは、保険適応上、インスリン製剤と併用することができる

GLP-1受容体作動薬は、DPP-4による分解を受けにくいように開発された注射薬で、「リラグルチド」「エキセナチド」「リキシセナチド」「デュラグルチド」があります。

リラグルラチド(ヒトGLP-1アナログ)は、ヒトGLP-1を改変して作られた薬です。エキセナチドは、アメリカドクトカゲの唾液に含まれる毒液から人工的に作られたものです。リキシセナチドはエキセナチドと似た成分でできています。デュラグルチドは、チャイニーズハムスターの卵巣細胞から作られています。

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者に用いられます。4つの種類それぞれ、元となる成分や、用法・容量が異なり、使用に適する対象者も変わってきます。

GLP-1受容体作動薬のメリットとは

ここがポイント!

  • GLP-1受容体作動薬は、低血糖を起こしにくい
  • GLP-1受容体作動薬は、肥満予防にもつながる
  • GLP-1受容体作動薬は、膵臓への負担が少ない
  • GLP-1受容体作動薬は、グルカゴンにも作用してより自然な血糖コントロールを行う
  • GLP-1受容体作動薬は、禁忌の対象となる人が少なく、2型糖尿病に広く用いることが可能

GLP-1受容体(GLP1R)作動薬には、これまでの糖尿病薬では解決できなかったことが叶うというメリットがあります。そのメリットを、具体的に見ていってみましょう。
GLP-1受容体作動薬の利点

1. 血糖値が高い時にだけ作用するので、低血糖を起こしにくい

従来の、不足しているインスリンを補うための働きをする経口薬や注射薬では、薬が効きすぎて血糖値が下がり過ぎる場合や、血糖値が正常、または低くなっている場合でも薬が作用して低血糖を起こすことがあります。その点、GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い時にのみ働くので、低血糖を起こしにくいというメリットがあります。

2. 体重増加が起こりにくい

従来の薬でインスリンを補うと、空腹が刺激されて食べ過ぎ、体重増加につながる場合があります。肥満は、インスリン抵抗性を生じやすく、血糖コントロールが不良となりがちです。GLP-1受容体作動薬は、中枢神経系に作用して食欲を抑えます。また、過剰なインスリンの分泌も起こさないので体重増加が起こりにくいというメリットもあります。

3. 膵臓に負担をかけにくい

インスリンの分泌を増やすための薬を用いて膵臓のβ細胞を刺激し続けていると、膵臓に負担がかかり、膵臓の機能が徐々に低下して、やがてインスリンの分泌自体が弱まります。GLP-1受容作動薬は、必要な時にだけインスリンの分泌を促すので膵臓への負担をかけにくいというメリットがあります。さらに、膵臓のβ細胞を増加させる効果もあります。

4. グルカゴンの分泌を抑えることができる

従来の薬は、インスリンを補うことはできてもグルカゴンの分泌過多を防ぐことはできません。GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促すだけでなく、グルカゴンの分泌の抑制にも働くので、本来の血糖コントロールに近い形で作用するというメリットがあります。

5. 禁忌となる対象が少ない

GLP-1受容体作動薬は、使用にあたっての制限が少なく、ほとんどの2型糖尿病患者に使用することができます。また、他の経口薬やインスリン製剤とも組み合わせることができます。

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GLP-1受容体作動薬の副作用と注意点

ここがポイント!

  • GLP-1受容体作動薬は、使用開始時に吐き気、下痢などの症状が見られる場合がある
  • GLP-1受容体作動薬は、スルホニル尿素(SU)薬との併用で低血糖を起こす場合がある

GLP-1受容体作動薬は、比較的副作用が少ないとされていますが、どんな薬にも副作用はあります。副作用と注意点を確認しておきましょう。
GLP-1受容体作動薬の副作用と注意点

1.使い始めて数カ月間は、消化器症状がみられることがある

吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状が見られることがあります。この症状が見られるのは初めの数カ月間だけで、徐々に落ち着いてきます。この症状の出現を避けるため、使用は少量から開始し、徐々に増量していくといった方法がとられます。

2.スルホニル尿素薬との併用で低血糖を起こす場合がある

インスリン分泌を促すスルホニル尿素(SU)薬とGLP-1受容体作動薬とを併用することで意識消失などの重篤な低血糖を起こす場合があります。スルホニル尿素薬と併用する場合は、医師とよく相談の上、指示を守りましょう。低血糖症状についての知識を持ち、低血糖症状がみられたら糖をすぐに口にするなどの対処を行うようにしましょう。

3.食事療法と運動療法は続けましょう

GLP-1受容体作動薬を使用し始めても、糖尿病の治療の基本である食事療法と運動療法は続けるようにしましょう。食事療法、運動療法をおろそかにすると、血糖コントロールが不良となります。

まとめ

ここがポイント!

  • GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を間接的に促す糖尿病の新しい薬
  • 肥満の人がGLP-1受容体作動薬を使用して、体重減少が認められたケースもある

GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を間接的に促し、低血糖のリスクを回避しながら、体への負担も少なく血糖コントロールを行うことができる糖尿病の新しい薬です。消化管ホルモン「インクレチン」の働きに注目して作られた薬で、今までの糖尿病の治療薬にはなかったメリットも複数あります。

さらに、血糖コントロール以外の作用もまた、注目されています。
例えば、GLP-1受容体作動薬の1つである「リラグルチド」を、2型糖尿病ではない肥満の人が、食事療法、運動療法と併用して使用したところ、同じ条件の肥満でリラグルチドを使用しなかった人たちに比べて、体重減少が認められたという報告もあります。この結果から、GLP-1受容体作動薬は、糖尿病だけでなく、肥満への治療効果も期待されています。

参考

糖尿病の新治療~インクレチン関連薬~一般社団法人日本臨床内科医会
インクレチンとは MSDホームページ
膵β細胞の生物学・病態学 京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学
トルリシティ® 製品Q&A 【薬効薬理・薬物動態】日本イーライリリー株式会社
糖尿病治療ガイド 日本糖尿病学会著・編 2016-2017
Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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