【DPP-4阻害薬】作用機序から考える糖尿病への効果と副作用を徹底解説

2015年12月に発表された厚生労働省の「患者調査」では、日本における糖尿病の患者数は316万6,000人でした。この結果を前回の2011年の調査結果と比較すると、4年間で糖尿病患者は46万6,000人増え、過去最高となったことが分かりました。
全世界でも糖尿病の患者数は増加し続けています。国際糖尿病連合(IDF)は、世界の20歳から79歳までの成人の糖尿病有病率(糖尿病が強く疑われる人の割合)は8.8%、つまり世界の11人に1人が糖尿病有病者であると報告しています。
日本では男性の15.5%、女性の8.9%が糖尿病有病者とされており、男性は世界平均よりも高い割合で糖尿病になっているといえます。
糖尿病患者が増え続ける一方で、糖尿病の治療法に関する研究も世界各国で精力的に行われています。その成果により、糖尿病の治療法は目まぐるしく進歩しています。現在の糖尿病の治療で特に注目されているのは、「糖尿病とインクレチンとの関係」です。この研究の成果によって開発された飲み薬であるDPP-4阻害薬は、現在多くの糖尿病患者の治療薬として使われています。そんなDPP-4阻害薬とはどのような薬なのか、またインクレチンやDPP-4とは一体何なのかなどについて、ここで詳しく解説していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01消化管ホルモン「インクレチン」とは?
  2. 02DPP-4とは?
  3. 03DPP-4阻害薬が効く仕組み
  4. 04現在使われているDPP-4阻害薬一覧
  5. 05副作用と注意点
  6. 06DPP-4阻害薬の利点
  7. 07まとめ

消化管ホルモン「インクレチン」とは?


ここがポイント!

  • インクレチンは、食後に消化管から分泌される消化管ホルモンの総称
  • 現在知られているインクレチンは、GLP-1とGIPの2種類
  • インクレチンは主に小腸から分泌される
  • インクレチンは「血糖依存的」な働きをする

「インクレチン」とは食事を摂取すると血液中に分泌される消化管ホルモンの総称です。主に小腸から分泌されるホルモンであり、現在知られている「インクレチン」はGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の2つです。
GLP-1は主に小腸下部から分泌され、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの分泌を促進させ、膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンの分泌を抑える働きがあります。GLP-1は膵臓以外にも作用します。例えば、胃から腸へ食べ物を送る働きを抑えたり、中枢神経に食欲を低下させる信号を送ったりします。一方、GIPは、主に小腸の上部から分泌され、GLPと同じ様に膵臓に働きます。インスリン分泌を促す効果はGLP-1の方が数倍強いと言われています。

膵臓のβ細胞から分泌される「インスリン」は、血液中の糖を筋肉などに取り込む働きを促進して、血糖を下げるホルモンです。一方、膵臓のα細胞から分泌される「グルカゴン」は、肝臓に働いて糖を血液中に放出する働きを促進し、血糖を上昇させるホルモンです。この「インスリン」と「グルカゴン」が血糖のコントロールに深く関わっているということは広く知られていますが、「インクレチン」はインスリンやグルカゴンの分泌をコントロールし、血糖をコントロールする効果を持っているのです。

さらに「インクレチン」は、血糖が低いまたは適度なときには働かず、血糖値が高い状態でしか働きません。このように、血糖値に影響を受ける働き方を「血糖依存的な働き」と呼びます。
インクレチンは、血糖が高くなければ働かないため、低い血糖を無理にもっと下げることはありません。具体的には、インクレチンは血糖値が80mg/dL以下では働かないとされています。このため、血糖が急激に下がってしまう状態である「低血糖」を起こなさいというメリットがあり、糖尿病の治療に非常に有効ではないかと注目されているのです。
インクレクチンとは

つまり、薬によって「インクレチン」が血液中に十分な量保たれていれば、血糖が高くなれば上手くコントロールするために働き、血糖が高くなければ何も影響を与えないということになります。一方で、「インクレチン」は作用効果が非常に短いという問題も持っています。その「インクレチンの作用効果」に関わっているのが「DDP-4」という物質です。

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DPP-4とは?

ここがポイント!

  • DPP-4はインクレチンを分解する酵素

「インクレチン」は、血糖値が高い状態でインスリンの分泌を促し、グルカゴンの分泌を抑える働きを持っています。体の中には、その「インクレチン」を分解してしまう酵素が存在します。それが「DPP-4(Dipeptidyl peptidase-4:ジペプチジルペプチダーゼ4)」です。
DPP-4は全身の腎臓、肝臓、腸管などの表面に存在する上皮細胞などに存在しており、食事刺激によって分泌されてた「インクレチン」を分解して、インクレチンの働きをストップしてしまいます。つまり、「インクレチン」は「DPP-4」の働きにより分解されて、わずか数分でその効果をなくしてしまうのです。

そこで、「DPP-4」が「インクレチン」を分解してしまう作用を遮断して、インクレチンが長く働き続けられるようにしてあげようと考えて開発されたのが、「DPP-4阻害薬」です。

DPP-4阻害薬が効く仕組み

ここがポイント!

  • インクレチンはインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制する
  • 「DPP-4阻害薬」は、DPP-4の働きを遮断して、インクレチンの作用を促進させる薬

「インクレチン」の作用を最大限に活用しようという考えの下で、糖尿病の治療薬として新しく開発されたのが、「DPP-4阻害薬」です。その名前の通り、「DPP-4」の働きを邪魔(阻害)することを目的にした薬です。
人の体は食事をすると、小腸などの消化管から「インクレチン」というホルモンが分泌され、膵臓に働きかけて血糖のコンロトールをサポートします。しかしこの「インクレチン」は、先ほど説明したように「DPP-4」によってあっという間に分解されて、その働きを奪われてしまいます。

糖尿病は、インスリンが何らかの原因により分泌されない、または分泌する機能が低下している状態です。また、体から出されたインスリンの機能だけではコントロールが追いつかないくらいの高血糖状態も糖尿病につながります。つまり、過食や肥満も糖尿病の発症に大きく影響しているということです。

食後など高血糖状態になった場合に、「インクレチン」は膵臓に働きかけ、、血糖値を下げる「インスリン」の分泌を促進し、血糖値を上げる「グルカゴン」の分泌を抑制するという働きを持っています。

分泌されたインクレチンは、「DPP-4」という酵素により数分以内に分解されるので、実際に機能するのはわずか10%程度と言われています。そこで、「DPP-4」の働きを邪魔し、「インクレチン」の作用を高めるように開発されたのが「DPP-4阻害薬」です。
DPP-4阻害薬の効果

「インクレチン」は、「高血糖」状態でなければ働かないので、血糖が低ければそれ以上の血糖の低下は起こりません。従って、DPP-4阻害薬は、これまで糖尿病治療で常に配慮が必要であった「低血糖」の危険が基本的にありません。
DPP-4阻害薬の対象となる糖尿病のタイプは、2型糖尿病です。その作用のメカニズムから、膵臓の細胞が壊されてインスリンを出せないタイプの1型糖尿病には効果を発揮できません。
「インクレチン」の機能を十分に発揮できるように、インクレチンを分解する「DPP-4」の働きを遮断して、低血糖の心配なく安全に血糖のコントロールを行う薬剤、それが「DPP-4阻害薬」なのです。

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現在使われているDPP-4阻害薬一覧

ここがポイント!

  • DPP-4阻害薬は9種類に分けられる
  • それぞれの種類は、飲み方(内服方法)に違いがある

「DPP-4阻害薬」は、大きく分けて「シタグリプチン」、「ビルダグリプチン」、「アログリプチン」、「リナグリプチン」、「テネリグリプチン」、「アナグリプチン」、「サキサグリプチン」、「トレラグリプチン」、「オマリグリプチン」の9種類となっています。「グリプチン」とつくのが「DPP-4阻害薬」の特徴です。薬の種類によって、内服量や内服するタイミングに違いがあるので注意しましょう。

① シタグリプチン
  ・グラクティブ錠(12.5mg/25mg/50mg/100mg) 小野薬品工業  50mgを1日1回
  ・ジャヌビア錠 (12.5mg/25mg/50mg/100mg) MSD株式会社 50mgを1日1回
*医師の判断により、経過を十分に観察しながら100mgを1日1回まで服用可能
 
② ビルダグリプチン
  ・エクア錠 (50mg) ノバルティス ファーマ(株)    50mgを1日2回朝、夕
 *医師の判断により、状態に応じて50mgを1日1回朝に服用可能

③ アログリプチン
  ・ネシーナ錠 (6.25mg/12.5mg/25mg/) 武田薬品工業(株) 25mgを1日1回

④ リナグリプチン
  ・トラゼンダ錠(5mg) 日本ベーリンガーインゲルハイム(株) 5mgを1日1回

⑤ テネリグリプチン
  ・テネリア錠 (20mg) 田辺三菱製薬(製造販売)、第一三共(販売) 20mgを1日1回
 *効果が不十分な場合には、医師の判断により、経過を十分に観察しながら40mgを1日1回まで服用可能

⑥ アナグリプチン
  ・スイニー錠(100mg) 三和化学研究所 100mgを1日2回朝、夕
  ・スイニー錠(100mg) 興和(株) 100mgを1日2回朝、夕
*効果が不十分な場合には、医師の判断により、経過を十分に観察しながら200mgを1日2回朝夕まで服用可能

⑦ サキサグリプチン
  ・オングリザ錠(2.5mg/5mg) 協和発酵キリン(株) 5mgを1日1回
 *医師の判断により、状態に応じて2.5mgを1日1回服用可能

⑧ トレラグリプチン
  ・ザファテック錠(50mg/100mg) 武田薬品工業(株) 100mgを1週間に1回

⑨ オマリグチプチン
  ・マリゼブ錠(12.5mg/25mg) MSD株式会社 25mgを1週間に1回

効果に違いはありませんが、内服方法が1日1回で良いもの、1日2回のもの、1週間に1回のものなどさまざまですので、医師の指示通りにきちんと内服しましょう。また分からないことや疑問なことがあれば、遠慮せずに医師、薬剤師に確認しましょう。

副作用と注意点

ここがポイント!

  • DPP-4阻害薬は、低血糖を起こしにくいが、他の糖尿病治療薬との併用で低血糖になる可能性はある
  • DPP-4阻害薬は安全性の高い2型糖尿病の治療薬だが、薬である以上副作用は存在する
  • 医師の指示通りに服用することが副作用を起こさないために重要

素晴らしい効果が期待できる「DPP-4阻害薬」ですが、副作用や注意すべき点もあります。

「DPP-4阻害薬」は単剤投与(DPP-4阻害薬だけを内服する治療)では「低血糖」が起こりにくいですが、その他の糖尿病治療薬剤と併用している場合には「低血糖」への注意が必要になります。DPP-4阻害薬は、現在では2型糖尿病の第一選択の薬とされています。安全性の高い薬ですが、単剤投与であっても初めて飲み始めた頃や、他の薬からこの薬への変更があった場合、薬の量に変更があった場合などには、体の変化に注意するようにしましょう。特に、スルホニル尿素剤(SU剤)との併用では、重篤な低血糖が生じる可能性があるため、注意が必要とされています。

「DPP-4阻害薬」は、「腎臓」で代謝、排出されるタイプと、「肝臓」を含めた全身で代謝し、腎臓から排出されるタイプがあります。タイプによっては、糖尿病性の腎症や、肝臓に疾患がある場合には、使用できない場合があり注意が必要です。例えば、ビルタグリプチン(商品名:エクア錠)は重篤な肝機能障害がある場合には使用が禁忌となっており使うことができませんし、腎機能障害がある場合にも慎重に使用しなければなりません。シタグリプチン(商品名:ジャヌビア錠,クラクティブ錠)、アログリプチン(商品名:ネシーナ錠)、アナグリプチン(商品名:スイニー錠)は腎臓で代謝、排泄が行われるため、重篤な腎機能障害がある場合には慎重に使う必要があります。胆汁から排泄されるリナグリプチン(商品名:トラゼンダ錠)や、肝臓、腎臓両方で代謝ができるテネリグリプチン(商品名:テネリア)は腎機能障害があっても肝臓で代わりに代謝ができるため、腎機能障害がある場合でも使用することができます。さらに「DPP-4阻害薬」の長期服用は肝臓、腎臓への負担が大きくなるため、定期的な検査を実施して、必要時には、薬剤の調整が必要になる場合があります。

また「DPP-4阻害薬は「膵炎」を引き起こす」という可能性が浮上し、さまざまな議論が行われていましたが、数々の研究がなされた結果、「DPP-4阻害薬内服者とその他の薬剤内服者では膵炎の発症に差がない」と判明し、現在では「DPP-4阻害薬と膵炎には関連性はない」と言われています。
その他には、嘔気、嘔吐、空腹感、腹部膨満感、便秘などの副作用と、どのような薬を飲んでいても注意が必要な副作用である、アナフィラキシーショック、急性腎不全、肝機能障害、、急性膵炎、腸閉塞、などがあります。
DPP-4阻害薬を内服する際には、定期的な診察、検査を受けて、身体の変化を確認しながら、医師の指示通りにきちんと治療を行い、何か変化があれば、すぐに医療機関に相談をしましょう。
DPP-4阻害薬の副作用と注意点

高血圧症発症チェック

DPP-4阻害薬の利点

ここがポイント!

  • DPP-4阻害薬は、食前、食後のどちらで服用しても大丈夫
  • DPP-4阻害薬を飲んでいると体重が増えにくくなる
  • DPP-4阻害薬を飲んでいると中性脂肪やコレステロールも低下する

「DPP-4阻害薬」の利点は、インクレチンの働きを良くすることはもちろんですが、他にもいろいろあります。

従来の糖尿病の治療薬は、食前に内服する必要があったり、自己注射をする場合にも食前に行う必要があったりするなど、内服や注射をする際の食事のタイミングが重要となっていました。「DPP-4阻害薬」は食前、食後どちらで内服しても問題なく、これは大きな利点となります
また、従来の糖尿病の内服薬で治療を行うと、体重が増えやすくなってしまう場合がありますが、「DPP-4阻害薬」は、体重が増加しやすくなることはないとされています。さらに、アナグリプチン(商品名:スイニー錠)は中性脂肪やLDLコレステロールを下げる働きがあるとも言われています。先ほど説明したように、単独使用で「低血糖」が発生しにくいという点も大きな利点です。
さらに、「トレラグリプチン」や「オマリグリプチン」のように週に1回の内服のみで治療ができるという点は、飲み忘れが減るため、良好な血糖コントロールにつながる大きな利点と言えます。

まとめ

「DPP-4阻害薬」は「インクレチン」と糖尿病との関係に基づいた、まさに画期的な治療法として開発され、現在では糖尿病治療の第一選択薬剤とされている薬です。糖尿病をはじめとする生活習慣病は、初めは全く症状がないところから始まりますが、最終的には命に関わる大きな病気の原因となってしまうこともあります。良い薬で治療をすることは大切なことですが、糖尿病にならないように生活習慣を整え、健康的な生活を送ることも大切なことです。バランスの取れた食生活と日々の適度な運動を心がけるなど、まずは無理なく健康的な生活を開始し、糖尿病をはじめとした生活習慣病の予防につなげましょう。

<参考>
糖尿病ネットワーク:DPP-4阻害薬とグリコアルブミン
化学的根拠に基づく糖尿病診断ガイドライン2013
糖尿病治療ガイド 日本糖尿病学会著・編 2016-2017
Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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