ニコチン依存症|たばこが脳と体に作用するメカニズム

たばこは、体に悪いとわかっていてもなかなかやめられない方も多いのではないでしょうか。たばこの中には「ニコチン」という有害物質が含まれています。ニコチンはたばこを吸うと肺からわずか数秒で脳に到達します。ニコチンは依存性が高く、「ニコチン依存症」を引き起こす物質として知られています。したがって、ニコチンを含むたばこを吸えば吸うほど依存度は増し、たばこをやめにくくなるのです。ここでは、「ニコチン」が脳や体へ作用するメカニズムを解説していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01ニコチンはとても強い依存性を形成する
  2. 02ニコチンは速やかに体内に吸収され脳に到達する
  3. 03ニコチン依存のメカニズム
  4. 04まとめ

ニコチンはとても強い依存性を形成する

ここがポイント!

  • たばこには「ニコチン」という有害物質が含まれている
  • ニコチンは薬物やアルコールに比べて依存性が強い
  • たばこは「身体的依存」と「精神的依存」の2タイプの依存を引きおこす
  • 「身体的依存」は「ニコチン依存」ともいわれている

たばこに含まれる「ニコチン」という物質は、「依存」を形成します。依存とは、その物質を求める抑えがたい欲求のことです。依存を形成する物質は、ニコチンだけではありません。アルコール、カフェインなどの合法的なものから、ヘロイン、コカインなどの違法な薬物などまで、多くの種類の物質が依存を形成します。

その中でも「ニコチン」は、とても依存を形成しやすい物質であるといえます。
英国の研究グループは、「ニコチン」「ヘロイン」「コカイン」「アルコール」の4種の物質の使用者を対象に、それぞれの物質に対して依存症を発症した人数を調べて報告しました。その結果、依存症を発症した人は多い順に「ニコチン(32%)>ヘロイン(23%)>コカイン(17%)>アルコール(15%)」でした。ニコチンは、他の薬物に比べて依存症になりやすく、使用者の約3割もの人が依存症になると分かったのです。

2017年に日本たばこ産業株式会社(JT)が実施した「全国たばこ喫煙者率調査」によると、日本の喫煙者率は「男性28.2%、女性9.0%、男女計19.3%」という結果が出ています。現在の日本の人口から計算すると、喫煙者は、約1,917万人万人いると推定されます。調査からは、喫煙率は徐々に低下してきていることがわかりますが、約5人に1人が喫煙者という現状をまずはしっかり認識する必要があるでしょう

ニコチンは、違法薬物のように、使用した瞬間に錯乱状態になることはありません。そのため、ニコチンを怖い物質だと考えていない人も多いかもしれません。しかし、一度「ニコチン依存症」になってしまうと、たばこをやめることはとても難しいのです。

たばこが引きおこす依存には、「身体的依存」と「精神的依存」の2つのパターンがあります。身体的依存とは、喫煙を繰り返すことにより体がニコチンの作用に慣れてしまい、ニコチンを切らすと離脱症状(落ち着かない、イライラする、集中できない、食欲が増すなど)が出現することをいいます。一方、精神的依存とは、たばこを吸っていた時の気持ちのよかった記憶や体験が積み重なり、他人が喫煙している姿をみたり、強いストレスを感じた時などに、喫煙への欲求が止められなくなることです。
喫煙が習慣になると、1日に吸うたばこの本数が増えて、たばこへの依存がさらに強くなります。依存が強くなると、たばこの効果が切れたときに離脱症状が現れるようになり、たばこが欲しいという気持ちが抑えられずに吸ってしまうという、負のスパイラルに陥ってしまいます。こうしたニコチン依存の負のスパイラルが原因で、たばこをやめたいと考えていても、なかなか禁煙を達成できない人が多いのです。

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ニコチンは速やかに体内に吸収され脳に到達する

ここがポイント!

  • たばこを吸うと、ニコチンは数秒以内に吸収されて、脳に到達する
  • オペラント強化とは、「行動の後に快感を得ると、再びその行動をしたくなる」こと
  • 喫煙行動は、オペラント強化によって習慣化する

たばこを吸うと、どのような経路でニコチンが体に入り、脳に到達するのでしょうか。

たばこの煙が肺にはいると、「ニコチン」は肺の毛細血管から吸収され、血流に乗って肺静脈、心臓、動脈を通過し脳に到達します。また、ニコチンは肺だけではなく、口の粘膜や皮膚からも吸収されると言われています。

ところで、喫煙した場合とニコチンを静脈注射した場合では、どちらの方がニコチンが脳に到達するまでの速度が速いのでしょうか?答えは、喫煙です。喫煙した場合は、静脈を通る時間が省かれるので、静脈から注射した場合に比べてニコチンが速く脳に到達するのです。

ニコチンが脳へ到達する速さの違いは、「オペラント強化」において重要な意味を持っています。「オペラント強化」とは、「人間や動物が何らかの行動をしたときに、快感やエサなどを与えられると、その行動をより多く行いたくなる」という心理現象のことです。

オペラント強化を喫煙の例に当てはめてみましょう。「たばこを吸いたい」と思ってから、たばこを吸います。すると、「ニコチン」が脳に作用して快感が得られます。快感が得られると、また快感を得たいという思いから、再びたばこを吸います。こうして何度も「たばこを吸いたい」と思うようになってしまうのです。

オペラント強化は、「行動を起こしてから快感やエサを得るまでの時間が短いほど強く起こる」という特徴があります。(逆に、快感やエサを得るまでの時間が長いほど弱くなります。)つまり、短時間で作用しオペラント強化が強くなされる物質ほど依存性が高く、依存を形成しやすい物質であるといえます。

たばこに含まれるニコチンは、肺から吸収されて脳に到達するまでの時間が短く、わずか数秒です。「ニコチン」という物質の作用だけでなく、脳に到達するまでの時間の短さもオペラント強化を強め、たばこの依存性を高めている原因であるといえます。火をつけて吸うだけのたばこは、とても手軽です。この手軽さも、よりニコチン依存症を引きおこしやすくしている一因であるといえます。

ニコチン依存のメカニズム

ここがポイント!

  • ニコチンが脳に到達すると、「ドパミン」を介して脳内報酬系に作用し、快感が得られる
  • 「たばこを吸う→快感を得る→たばこを吸う」の悪循環になる
  • 喫煙により離脱症状が改善したとしても、一時的であり、すぐに「次の1本」が欲しくなる

脳に到達したニコチンは、どのように脳に作用して「快感」を生じさせ、依存を形成していくのでしょうか。そのメカニズムを見ていきましょう。

たばこを吸い続けていると、脳細胞に、ニコチンを受け止めて作用させるための「ニコチン受容体」というタンパク質が増えていきます。ニコチン受容体にニコチンがくっつくと、脳細胞から快感物質である「ドパミン」が分泌されます。ドパミンを介して、快感や満足感を与える脳内報酬系が働きます。そのため、たばこをおいしく感じ、また吸いたくなります。こうして気が付くと、「たばこを吸う、快感を得る、たばこを吸う」という悪循環に陥っているのです。

さきほど「オペラント強化」で説明したように、快感を覚えた脳は、ニコチンをもっと欲しがるようになります。こうしてニコチン依存症は悪化していきます。ニコチン依存症が悪化していくと、たばこを吸うのを我慢できなくなってしまいます。いつの間にか、脳内にニコチンが常にあるのが当たり前の状態になってしまい、たばこを吸わないでいると脳内がニコチン欠乏状態となります。すると、「イライラする」「集中できない」「頭痛がする」「眠れない」「体がだるい」などさまざまな離脱症状が現れます

こうした離脱症状に耐えられず、たとえ禁煙をしていても、我慢できずに再度たばこを吸ってしまう人は大勢います。しかし、たばこを吸って離脱症状が改善したとしても、それは一時的なもので、すぐに「次の1本」は欲しくなります。
ニコチン依存から脱出するためには、相当な努力と場合によっては治療が必要なのです。

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まとめ

「ニコチン」がどれだけ強い依存症を引きおこすのか、理解していただけたでしょうか。たばこにより快感を覚えた脳は、常にニコチンを欲するようになってしまいます。禁煙しようと思っても離脱症状が現れ、それに負けて結局たばこを吸ってしまう人は大勢います。
自分だけで禁煙するのはとても難しいことです。たばこをやめられない人は、「ニコチン依存症」であるということを理解し、正しい知識のもとで禁煙外来を受診したり、禁煙補助薬などを活用したりして禁煙に取り組むことが大切です。

参考

くまもと禁煙推進フォーラム
日本循環器学会 禁煙促進委員会
ニコチン依存症に対する行動療法の動機づけ|福井大学医学部附属病院総合診療部
禁煙ガイドライン
JT|日本たばこ産業株式会社
Royal College of Physicians : "4. Is Nicotine a drug of addiction ? " Nicotine Addiction in Britain.
a report of the tobacco advisory group of the Royal College of Physicians. Royal College of Physicians of London : 83, 2000
Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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