肺の構造と機能
ここがポイント!
- 肺の中は、「肺胞」というぶどうの房状のものが集まってできている
- 肺は主に「ガス交換」と「免疫」の2つの機能を果たしている
- 肺のガス交換により、全身に酸素が行き渡り、不要な二酸化炭素が体から出される
- 肺の免疫機能は主に、気管支の「腺毛」と肺周辺の「マクロファージ」により保たれている
たばこが肺に及ぼす影響について具体的に説明する前に、肺の構造と機能について確認しておきましょう。
肺の構造
肺は、胸の位置に左右に分かれて存在する臓器です。肺の内部は、「肺胞」というぶどうの房のような形のものが多数集まって出来ており、その肺胞の周りを血管が張り巡らされています。肺の機能①ガス交換
肺の主要な機能は、肺胞で行われる「ガス交換」です。「ガス交換」とは、吸った空気に含まれる酸素を血液中に取り込み、反対に血液中の二酸化炭素が体の外へ出るように肺胞内へ移動させる動きです。血液中に移動した酸素は、赤血球に含まれている「ヘモグロビン」というタンパク質と結合し、全身へ運ばれていきます。何らかの障害によって、血液中へ取り込む酸素が減少したり、酸素と結合するヘモグロビンが減少したりすると、体に十分な酸素が行き届かなくなってしまいます。そうなった場合には、体が酸欠状態となり息苦しさなどの症状が出現します。
肺の機能②免疫
肺は呼吸以外に、自分の体を細菌やウイルスなどの外敵から守る「免疫」においても重要な役割を果たします。細菌やウイルスが体内に侵入した場合、肺につながる気管や気管支で免疫機能が働きます。この仕組みについて、もう少し詳しく見てみましょう。
まず、細菌やウイルスなどの病原体が口から入って気管までやってくると、気管や気管支の表面にある、「線毛」という細かい毛のような構造が病原体を捕まえて、体の外へ出そうとします。
病原体が線毛によるガードを突破してしまった場合、病原体は気管よりもさらに奥に進み、肺胞に侵入してしまいます。すると今度は、肺胞にいる「マクロファージ」と呼ばれる免疫細胞がやってきて、病原体を捕まえて食べてしまいます。
肺はこのような働きによって、外敵から体を守っています。
ここまで肺の構造と機能について見てきました。
次はたばこの有害物質に注目して、それらの有害物質が肺にどのような害を及ぼすのかを見ていきましょう。

たばこの煙に含まれる有害物質と肺への影響
ここがポイント!
- たばこの煙には多くの有害物質が含まれている
- ニコチンは、たばこへの依存や動脈硬化の進行などを招く
- タールは「ヤニ」と言われるもので、発がん性物質を多く含む
- 一酸化炭素はヘモグロビンと結びつくことで、体を酸欠状態にする
- カドミウムや二酸化窒素は、気管支の炎症や肺胞の破壊、免疫機能の低下を招く
たばこの煙には約200〜250種類もの有害物質が含まれています。それぞれがどういった有害作用を持っているのか、またそれが肺へどのように影響するのかを見ていってみましょう。
ニコチン
ニコチンは、依存を招く物質です。たばこを吸ってニコチンが脳に入ると、「ドパミン」という快感を生む物質が放出されます。この仕組みによって、喫煙をすると快感を得られると体が認識します。すると喫煙本数が増えてたばこがやめられなくなり、やがて依存状態になってしまいます。喫煙期間や本数が増えるほど、肺に悪影響が及ぼされる可能性も高くなります。ニコチンには依存以外に、血管を収縮させる作用もあります。ニコチンが血管を収縮させることで血圧が上がり、脈拍も上昇します。その結果、動脈硬化が招かれ、心臓に負担がかかります。
タール
タールはいわゆる「ヤニ」と言われるもので、たばこの煙に含まれるいくつかの物質の総称です。喫煙者の歯が黄ばみやすくなり、肺が黒くなるのは、このタールが原因です。タールには、約60種類の発がん性物質が含まれています。タールに含まれる発がん性物質は、肺がんの発症につながります。
一酸化炭素
一酸化炭素は、酸素が十分に無い環境で、炭素が不完全燃焼した時に出る物質です。一酸化炭素は体に入ると、赤血球中の「ヘモグロビン」というタンパク質と結びつきます。本来、赤血球中のヘモグロビンは酸素と結びついて体の隅々に酸素を運びます。しかし、一酸化炭素とヘモグロビンの結びつきは、酸素の200倍以上と強力なのです。そのため、喫煙により一酸化炭素が体内に増えると、ヘモグロビンがほとんど一酸化炭素に取られ、肝心な酸素と結びつく余裕がなくなってしまいます。その結果、赤血球は酸素を十分に運べなくなり、運動能力が低下します。カドミウム、二酸化窒素
カドミウムと二酸化窒素は、気管支や肺胞の内側の細胞である「上皮細胞」を傷付けます。上皮細胞が傷付くと、気管支の免疫機能である「線毛」の機能が低下します。その結果、細菌やウイルスが肺に入り込みやすくなります。すると、気管支の炎症や肺胞の破壊が引き起こされて、呼吸がしづらくなります。ここで挙げたものは、たばこの煙に含まれる有害物質の中のほんの一部です。実際は他にも多数の有害物質が含まれており、全ての有害物質は、たばこの煙が肺を通して体内に入るたびに体に悪影響を与えています。
喫煙が原因となって起こる肺の主な病気
ここがポイント!
- 喫煙の影響で発症しやすくなる肺の病気には「肺がん」「COPD」「気管支ぜんそく」「感染性肺疾患」などがある
- たばこの煙に含まれる発がん性物質は肺がんの発症につながる
- たばこの煙の有害物質が肺の細胞を傷つけることがCOPDの発症につながる
- たばこの煙の有害物質の作用で免疫力が低下し、気管支ぜんそくの悪化や感染性肺疾患の発症につながる
有害物質が多く含まれるたばこの煙は、肺に直接入ります。そのため、肺への影響が大きいことは想像しやすいと思います。ここでは、喫煙によって具体的にどのような肺の病気になりやすくなるのかを、説明していきます。
肺がん
喫煙により、たばこの煙に含まれる発がん性物質が肺に流れ込みます。発がん性物質は、細胞内で遺伝子を保っている「DNA」という物質に作用します。すると、遺伝子は突然変異を起こし、異常な状態になってしまいます。このような仕組みにより、正常な肺の細胞は喫煙によりがん化し、がん化した細胞、つまり「がん細胞」が増殖することで、肺がんが発症してしまいます。肺がんの一般的な症状は、「長く続く咳」「血が混じった痰」「息切れ」などです。肺がんが進行するに連れて、がん細胞は周りの組織を破壊しながら増殖していきます。その結果、がん細胞が血液やリンパの流れによって全身に広がり、他の臓器に転移してしまいます。
国立がん研究センターの調べによると、日本の喫煙者は非喫煙者に比べて、男性では4.5倍、女性では4.2倍肺がんになりやすいと分かっています。また、同じ調査において、肺がんになった人のうち、男性では68%、女性では18%が、たばこが原因で肺がんになったと考えられるとの報告がでています。調査した1999年の肺がん患者は男性が約6万人、女性が約3万人でした。この人数から計算すると、男性の約4万人、女性の約5千人が、たばこを吸っていなければ肺がんにならなくて済んだと考えられます。それだけ、喫煙と肺がんの関係は深いということが分かります。
COPD
COPDは肺がん以上に喫煙との関係性が深いと考えられている病気です。COPDは、正式には「慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)」と言われる病気で、かつては肺気腫や慢性気管支炎とも呼ばれていました。COPDは肺胞や気管支がたばこの有害物質によって傷つけられ、十分に機能しなくなって起こる病気です。たばこの煙に含まれるカドミウムや二酸化窒素が、気管支の炎症や肺胞の破壊を招いてしまうことは先ほど説明しました。気管支が炎症を起こすと、気管支が分厚くなり、分泌物も増えるため空気の通り道が狭くなってしまいます。また肺胞が傷ついたり破壊されたりすると、十分にガス交換が行えなくなるため、体に酸素が行き渡らず、また二酸化炭素が体内に溜まるため、息苦しくなってしまいます。
(COPDの詳細は「たばこと病気|喫煙が原因の病気一覧」を参照)
気管支ぜんそく
気管支ぜんそくの人は、気管支が慢性的に炎症を起こしているため、気管支内の空気の通り道が狭く、敏感な状態になっています。そのため、たばこやほこりなどの刺激によって、炎症が起こりやすくなります。たばこの煙による刺激で気管支の炎症が急激に起こると、発作性の呼吸困難や咳など(ぜんそく発作)が生じます。たばこはぜんそく発作の引き金になるだけではありません。たばこの煙に含まれる有害物質は、体の免疫機能を低下させてしまいます。そのためぜんそく発作の発端となる異物が気管や肺に混入しやすくなります。加えて気管支の炎症も起こりやすく、一度起きた炎症は長引きやすくなってしまいます。喫煙者のぜんそくは、重症化しやすく、治療薬が効きにくいと言われています。
感染症肺疾患
たばこの煙に含まれる有害物質が体の免疫力を低下させることは、先ほど説明した通りです。つまり、喫煙者は肺の免疫機能が低下してるため、風邪をひくと咳や痰の症状が長引きやすくなります。また、肺炎になりやすかったり、結核感染や発病のリスクも高くなると言われています。実際、喫煙者の方が非喫煙者よりも結核を発症するリスクが高いことが、研究によって示されています。他にも、喫煙者の結核の重症度や死亡率は非喫煙者よりも高くなるという研究結果も出ています。
たばこが胎児や乳幼児に与える有害な影響
ここがポイント!
- たばこは喫煙者だけでなく、おなかの赤ちゃんや乳幼児にも有害な影響を与える
- 妊娠中の喫煙や、両親の屋内での喫煙により、子どもは呼吸器系の病気になるリスクが上がる
たばこは喫煙者本人だけでなく、周りの家族にも有害な影響を与えてしまいます。特に強い影響を受けるのが、おなかの中にいる赤ちゃん(胎児)や、乳幼児です。
妊娠中に母親が喫煙している場合、生まれてきた赤ちゃんの肺機能が低下する原因となります。胎児は、母親が吸うたばこの有害物質を、胎盤を通して受け取るからです。
また乳幼児は、両親が吸うたばこの煙を、部屋の空気と一緒に間接的に吸ってしまうことによってたばこの影響を受けてしまいます。厚生労働省によると、両親が喫煙をしている場合、非喫煙の両親に比べて小児呼吸器疾患の発生が約3倍になるという調査結果が出ています。
まとめ
喫煙で既に肺が傷付いている場合でも、禁煙によって元通りとはいかずとも、肺の機能が回復したり、病気のリスクが減少することは分かっています。
「自分で禁煙してもすぐに失敗する」と感じている人は、病院で禁煙治療を受けるという方法もあります。本気で禁煙を決意して何度も失敗している人は、息苦しさのない未来を手に入れるために、ぜひ一度、医療機関に行って相談してみることをお勧めします。