高血圧専門医に聞く②ー自覚症状がなければ治療を止めて大丈夫ですか?

谷田部先生

高血圧を発症している人は、約4,000万人にも及ぶと推計されています。生活習慣病の一つであり、いつ誰が発症してもおかしくない病気なのです。血圧が高い状態が続くと、命に関わる合併症を発症するリスクもあるのです。そこで、知っていそうで意外に知らない高血圧の本当の怖さから今日から出来る対策までを、高血圧専門医である谷田部淳一先生にインタビューしました。

目次

  1. 01高血圧患者の25%しか、治療を受けていない
  2. 02自覚症状がないから、ドロップアウトが多い
  3. 03治療を継続させるためには、工夫が必要
  4. 04最後に

東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 講師
谷田部 淳一先生

高血圧患者の25%しか、治療を受けていない

ー高血圧の診療ガイドラインでは、日本国内で約4300万人が高血圧を発症していると記載されています。しかし、患者調査を見ると治療を受けている人は、約1000万人(25%程度)と少ないですよね。高血圧は治療を受けていない患者さんが非常に多いと言う結果が出ていますが、先生はどうようにお考えですか?

谷田部先生:そうですね、そのような患者さんをどうやって治療に結びつけるかは、重要な課題だと思っています。そのためには、医師一人では難しいと思うので、高血圧もチーム医療にしていくのも良いと思いますね。

ー確かにそうですね。「毎日血圧測ってね」と言われてもなかなか難しいけれど、週に一度誰かに報告しなければならないといった機会があれば、きちんと計らないとという気持ちになりますよね。

谷田部:そうです。初めは、医師。その次は看護師、その次は管理栄養士、その次は理学療法士など、それぞれの取り組みに肌が合うものがあればそれを中心に治療を進めて行くのも良いと思います。人にはそれぞれ性格がありますからね。

ーチームで干渉して行くことで、受診のきっかけにもなるのかなと思います。

谷田部:高血圧の治療の一番の目的は一次予防なんですよね。私たちが心血管病を発症するまでには20〜30年かかりますよね。それってあまり想像できませんよね。まずは、高血圧がそういった病気に繋がることを想像できるようなキャンペーンを、医師だけでなく、多くの医療従事者と協力して、行う必要があるのではないでしょうか。

ー先生が高血圧の診療を行う中で、受診する割合が高い年齡層はあるのでしょうか?

谷田部:私は大学病院に勤めているので、一般の先生では見切れない難しい患者さんが送られてくることも多く、年齢層に偏りはありません。
しかし、男性の場合は30代、40代と各年代で高血圧を発症している割合は異なりますよね。女性の場合は閉経後の50代、60代、70代で割合が増加してくるので、20〜40代の患者さんは少ないです。そのため、高血圧を発症しているが治療を受けていない「隠れ高血圧」は働き盛りの男性に多いイメージがありますね。

高血圧症発症チェック

自覚症状がないから、ドロップアウトが多い

ー治療継続には、いくつものハードルがあるー

ー大学病院の診療では、他の病気が原因で血圧が上がってしまう「二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。」の患者さんが多いと思います。二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。の方は、高血圧以外の病気の治療もあるので、通院継続率は比較的高いと予想できます。しかし、他の病気が原因ではない「本態性(一次性)高血圧」の人の中には、「この人は治療を続けた方がいいのに、通院を途中でドロップアウトしてしまった」という人もいるのではないでしょうか?

谷田部:通院が継続出来ずにドロップアウトしてしまう方はいます。しかし、医師や医療スタッフも人員が少ないため、そういった方を再度受診させるようフォローまでは出来ていません。今後、受診勧奨を積極的に行うシステムづくりが必要だと思います。高血圧や糖尿病糖尿病(とうにょうびょう)膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンという、血糖値を下げるホルモンの分泌が減少したり、効果が弱まったりすることで、血液中のブドウ糖濃度が高くなる状態をいう。β細胞が破壊され、インスリンの分泌がほどんどなくなる1型糖尿病と生活習慣病の一つである2型糖尿病の2つに分類される。は、生活習慣病に括られてしまうので、なかなか治療へのモチベーションが上がらないんですよね。
二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。の原因として最も多いのは、「原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症(げんぱつせいあるどすてろんしょう)アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されている状態。原因の多くは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)に出来る腫瘍である。主な症状は高血圧症であり、二次性高血圧の原因で最も多い。低カリウム血症、多尿、テタニー(手足のしびれ、けいれん)などの症状が現れる場合もある。」という病気なのですが、そういった病名がつけば患者自身も治療をしなくてはという気持ちになりますからね。また、こうした病名がつくと会社からの理解も得られやすく、休みが取りやすいという点もあると思います。「高血圧」だけでは、緊急性がないと判断されがちですからね。

高血圧の場合、生活習慣病というイメージがありますが、二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。のように他の病気が原因で血圧が上がっている場合もありますから、高血圧の検査を行う場合には「あなたの生活習慣ばかりが原因ではない可能性があります。それを確かめましょう。」といった形で説明するとスムーズに検査に入りやすいですね。実際、原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症(げんぱつせいあるどすてろんしょう)アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されている状態。原因の多くは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)に出来る腫瘍である。主な症状は高血圧症であり、二次性高血圧の原因で最も多い。低カリウム血症、多尿、テタニー(手足のしびれ、けいれん)などの症状が現れる場合もある。の可能性があるといって紹介されてくる方の約9割は原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症(げんぱつせいあるどすてろんしょう)アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されている状態。原因の多くは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)に出来る腫瘍である。主な症状は高血圧症であり、二次性高血圧の原因で最も多い。低カリウム血症、多尿、テタニー(手足のしびれ、けいれん)などの症状が現れる場合もある。であるといった事実もあるのです。二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。は、あるかもしれないとまずは疑ってみることが大切です。
二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。と診断されるのは高血圧の患者のうち多く見積もっても10%程度と考えられています。しかし我々は、働き盛りの年齢層では原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症(げんぱつせいあるどすてろんしょう)アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されている状態。原因の多くは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)に出来る腫瘍である。主な症状は高血圧症であり、二次性高血圧の原因で最も多い。低カリウム血症、多尿、テタニー(手足のしびれ、けいれん)などの症状が現れる場合もある。の頻度がもう少し高いのではないかという結果も得ています。

ーなるほど、高血圧のうちほとんどの人は「本態性高血圧本態性高血圧(ほんたいせいこうけつあつ)原因の明らかでない高血圧。高血圧の原因となる病気がなく、生活習慣の乱れなどが原因である。高血圧の約90%が本態性高血圧である。」ということですね。
高血圧を放置していた場合に、「二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。」と「本態性高血圧本態性高血圧(ほんたいせいこうけつあつ)原因の明らかでない高血圧。高血圧の原因となる病気がなく、生活習慣の乱れなどが原因である。高血圧の約90%が本態性高血圧である。」、それぞれの患者さんのリスクに違いはあるのでしょうか?

谷田部:リスクに関しては血圧通りと考えて良いと思います。どのタイプの高血圧であっても、よくコントロールされていれば血圧に関するリスクは同程度という意味です。もちろん、二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。の場合、高血糖や脂質異常など別の病態も抱える場合があり、上積みのリスクはありますが。一方で「原発性アルドステロン症原発性アルドステロン症(げんぱつせいあるどすてろんしょう)アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されている状態。原因の多くは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)に出来る腫瘍である。主な症状は高血圧症であり、二次性高血圧の原因で最も多い。低カリウム血症、多尿、テタニー(手足のしびれ、けいれん)などの症状が現れる場合もある。」などの「二次性高血圧二次性高血圧(にじせいこうけつあつ)特定の病気が原因となり引き起こされる高血圧。原因となっている病気の精査や治療が必要。」では、降圧薬を含む適切な治療を受けなければ病状が改善しない場合が多く、病気をよく理解した上で、専門医の治療を受けてもらいたいですね。

ー週に3日程度測定すれば、ある程度のリスクは把握出来るんですね。しかし、患者さんの中には毎日血圧を律儀に測定している方がいますよね。そうすると、一時的に血圧が150〜160mmHgと高くなることもあると思いますが、問題ないのでしょうか?

谷田部:一過性であれば問題はないです。それよりも日々の振幅が大きいものが危険であると言われています。例えば、今日は120、明日は160、明後日は120といって数値がおおきく変動する場合です。

ー血圧の振幅が大きい方の場合、治療はどのように行われるのでしょうか?
谷田部:例えば、振幅の波が朝と晩である場合は、朝の血圧を下げるために内服のタイミングを夜にずらすなどの方法をとっていきます。体の緊張を取る交感神経遮断薬を使う場合や、夜間や早朝の高血圧では睡眠時無呼吸症候群を疑う場合もあります。個人の状態に合わせて、治療方針を変更していきます

治療を継続させるためには、工夫が必要

ーオンライン診療の重要性ー

ー高血圧患者さんの治療を継続させる試みの一つとして、現在、先生が取り組んでいるオンライン診療の臨床試験がありますね。まず、オンライン診療とは何ですか?また、なぜ高血圧のオンライン診療を行おうと考えたのですか?

谷田部:オンライン診療とは、再診の患者さんに限り、病院に来なくてもスマホなどを通じて医師とコミュニケーションをとることで、実際の診察の代わりにしようとすることです。近年、高血圧治療において、医師との対面診察を必要としないオンライン診療が有効であったという報告が世界的に相次いでいます。 しかし、わが国において、オンライン診療は2015年に始まったばかりで、その安全性や効果について大規模な検討はなされていません。
電話やインターネットを利用したオンライン診療を利用することで、忙しくて定期的な通院ができない患者さんの治療を継続させることにつながり、加えて、待ち時間もなくなるため、患者さんの生活の質が大きく向上する可能性があります。

ー現在行っているオンライン診療の臨床試験の目指しているものは何ですか?

谷田部:現在行なっている臨床研究では、高血圧治療を対面診療群とオンライン診療群とで別々に行い、血圧が下がり具合を比較しています。このような研究を行い、なるべく早く高血圧オンライン診療の安全性や効果を認めてもらうことが目的です。ただ、加えて、継続率やドロップアウト率、患者のオンライン診療に対する受け止め方など、他の評価も行っています。
今回の臨床研究では、もともとオンライン診療を希望している人をオンライン診療群と対面診療群に振り分けているので、対面に振り分けられた時点でドロップアウトしてしまっている人もいます。逆に考えれば、対面診療での治療を拒否している方がいる事がわかり、オンライン診療に一定の需要があることも表していると思います。

ー血圧の治療で、谷田部先生が注目している最新の治療法は何かありますでしょうか。例えば、糖尿病糖尿病(とうにょうびょう)膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンという、血糖値を下げるホルモンの分泌が減少したり、効果が弱まったりすることで、血液中のブドウ糖濃度が高くなる状態をいう。β細胞が破壊され、インスリンの分泌がほどんどなくなる1型糖尿病と生活習慣病の一つである2型糖尿病の2つに分類される。や骨粗しょう症では1回飲めば一週間効果が持続する薬もありますよね。高血圧ではそういった薬はないのでしょうか。
谷田部:高血圧症の場合、毎日薬を服用することが必要です。ただ、降圧薬は基本的に長時間作用するようにできているので、朝飲み忘れたら昼、昼のみ忘れたら夕といったように、思い出したらでも良いからとにかく1日1回飲めば問題ない薬剤が多いです。
最近では、配合剤を用いる事で薬の種類を減らし、内服治療を継続しやすいよう工夫することができます。薬の管理もしやすく、医療費も少なくて済みます。
特にオンライン診療と配合剤の親和性は高いと思います。オンライン診療で対面していないのに、薬の種類が増えていくと不安になりますからね、現在は、治療を強化する過程で4段階くらいまでは配合剤1錠で対応できるようになっています。

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最後に

ーありがとうございました。最後に、一般の方がよくこういう認識を持っているけれど、実は間違いといった「血圧あるある」はありますか?

谷田部:そうですね。高齢の方に多いのですが、「上の血圧は高いけれど、下の血圧は低いから大丈夫」と言っている方がたまにいらっしゃいますよ。基本的に「脈圧(最高血圧と最低血圧の差)」が大きくなるほどリスクが高まるとされているので、上の血圧が高い場合には、下の血圧が低いほどよりリスクは高まるんです。なので「上の血圧が高いが、下の血圧が低いから安心」というのは間違いなんですよね。動脈硬化が進行するほど下の血圧が下がるので、動脈硬化が進行している証でもあるんです。
高血圧はとてもありふれた疾患であるため、逆に多くの方々が油断とともに放置している、または目をそらしている現状があります。これを機会に、ぜひ正しい知識を持ってもらいたいですね。

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