禁煙の成功率が低い理由について|たばこが脳に作用するメカニズムをもとに徹底解説

健康に及ぼすさまざまなリスクが分かっていても、「禁煙したいけど、できない」人が後を絶たないのはなぜでしょうか。禁煙に成功するには、まずは正確な「たばこ」についての知識を知っておくことが大切です。ここでは、なかなかたばこをやめられない理由や、禁煙にトライした人の実際の成功率などを詳しく説明していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01たばこを簡単にやめられない理由とは
  2. 02たばこの身体的依存が起こるメカニズム
  3. 03たばこの心理的依存:「習慣」という名の負のループ
  4. 04たばこの健康への影響を再確認しよう
  5. 05実際の禁煙成功率とは
  6. 06まとめ

たばこを簡単にやめられない理由とは

ここがポイント!

  • たばこをやめづらい理由は、主に「身体的依存」と「心理的依存」
  • 身体的依存は、たばこの成分が体から抜けて「離脱症状」が生じる状態
  • 心理的依存は、吸いたい気持ちが抑えられない精神状態

「たばこを吸うと肺がんになりやすいって言うけれど、たばこを吸わないとストレスが溜まって胃潰瘍になっちゃうよ!」喫煙者のこんな言い訳、聞いたことありませんか。

喫煙者は、どうして吸わないとストレスが溜まってしまうほどに、たばこを吸い続けたいと思うのでしょうか。その理由は主に2つ、「身体的依存」「心理的依存」が生じるからなのです。

「身体的依存」は体の依存。たばこの成分が体に作用し、その成分が体内から消えると、離脱症状(いわゆる禁断症状)が現れる状態です。
一方、「心理的依存」は心の依存。たばこを吸いたい気持ちが抑えられない精神状態です。

この2つの依存について、もう少し詳しく見ていってみましょう。

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たばこの身体的依存が起こるメカニズム

ここがポイント!

  • たばこを吸うと「ニコチン」が肺から取り込まれ、すぐに脳に到達する
  • ニコチンの作用で脳の神経細胞から「ドパミン」が放出される
  • ドパミンによって、満足感やリラックス感が得られる
  • たばこを長期間吸い続けると、脳細胞にニコチンが無い状態ではイライラしてしまうようになる
  • イライラしているときにたばこを吸うと脳が「報酬」と認識し、身体的依存となる

まずは、身体的依存が起こるメカニズムを見ていきましょう。

たばこを吸うと、「ニコチン」という成分が口から入って、すぐに肺へと進みます。続いてニコチンは肺の血管から取り込まれ、血液に乗って体を巡ります。ほどなくしてニコチンは、心臓を通り脳に到達します。

脳の神経細胞には、ニコチンという物質を受け止める「ニコチン受容体」というものがあります。この受容体にニコチンが結合すると、神経細胞(神経線維)から「ドパミン(ドーパミン)」という物質がたくさん放出されます。ドパミンは「神経伝達物質」と呼ばれる物質の1種で、隣接する神経細胞に存在する「ドパミン受容体」を介して、運動、ホルモンバランス、感情などを調節するさまざまな種類の神経を活発に働かせます

ニコチンの作用によって放出されたドパミンは、「脳内報酬回路」という部分にも働きかけます。これは、脳の「報酬を感じさせる部位」で、専門的には中脳腹側被蓋野(ちゅうのうふくそくひがいや)や大脳辺縁系側坐核(だいのうへんえんけいそくざかく)と呼ばれる部位です。

ドパミンによって脳内報酬回路が活性化されると、満足感やリラックス感(緊張緩和効果)が得られます

ニコチンの作用が、「一時的に満足感を与えてくれる」だけのものであれば、依存は起こりません。しかし、実はニコチンには厄介な問題があります。

喫煙の習慣により、ニコチンを長期間摂取し続けます。すると、もともとは「ニコチンが無い状態で平常」だった脳の状態が、「ニコチンが無い状態ではイライラしたり不安になったりする」と、いつの間にかベースラインがマイナスになってしまうのです。この状態を、ニコチンの「離脱症状」と言います。

ニコチンは、脳のニコチン受容体にくっつきっぱなしなわけではなく、実はすぐに離れていきます。そのため、たばこによる満足感は30分ほどで消え、イライラ感などが募っていきます。

離脱症状が起きている状態でたばこを吸うと、脳は「報酬」として認識し、満足感が得られます。しかし30分程経つと、またイライラ。これを抑えるためにまたたばこを吸い、程なくすると満足感が再び消えてイライラ・・・こうして、たばこをやめることができなくなる。これが「身体的依存」の実態というわけです。

たばこの心理的依存:「習慣」という名の負のループ

ここがポイント!

  • たばこを吸い込んでから脳にニコチンが到達するまでの時間は、ほんの数秒
  • たばこは簡単に手に入り、イライラを解消してくれるので習慣化する
  • この「習慣化」こそが、たばこの心理的依存の実態

喫煙により吸い込んだニコチンが脳に作用するメカニズムが分かったところで、今度は心理的依存について見ていきましょう。

たばこは口で吸うものです。先ほど説明したように、ニコチンは吸い込まれて一瞬で肺まで届き、肺の血管から吸収され、血流に乗って脳へ運ばれます。たばこを吸ってからニコチンが脳に到達するまでの時間はほんの数秒で、あっという間です。

実は、ニコチンを静脈に注射するよりも、喫煙で同じ量のニコチンを口から摂取した方が、動脈でのニコチン濃度の上昇率ははるかに大きいと分かっています。そしてこれがまさに、心理的な依存度を大きく深める原因の1つとなっています。

一般的に私たちは、何かが欲しいと思った場合、何らかの行動を起こします。もしもその行動の結果、すぐに欲しいものが手に入ったらどうしますか。もう一度同じ行動をしようと思うのではないでしょうか。心理学の世界ではこの状況を「報酬提示の即時性」と言います。そして、たばこはまさにこのパターンに当てはまります。

たばこは、「喫煙する」という行動から「満足感」という結果が得られるまでにかかる時間が短いので、イライラを即座に解消してくれます。さらに、たばこは簡単に手に入るので、喫煙という行動は、やがて日常生活の一部となります。イライラしたときから始まり、やがて、仕事が一段落したとき、お酒を飲んだとき、目覚めたとき、食後…など、さまざまな日常の場面で喫煙は習慣となり、さらにたばこはやめにくくなります


たばこが習慣になるまでには、ある程度の時間がかかりますが、一旦習慣ができてしまうとその依存度は大きく、なかなかやめることはできません。これがまさに、「習慣」という名の負のループ、「心理的依存」の実態です。

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たばこの健康への影響を再確認しよう

ここがポイント!

  • たばこの煙は「主流煙」「呼出煙」「副流煙」の3種類
  • 「呼出煙」「副流煙」にさらされることを「受動喫煙」という
  • 受動喫煙者は喫煙者と同じく健康被害のリスクが高まる
  • たばこの煙には70種類の発がん性物質を含む200種類以上の有害物質が含まれる
  • 世界各国の研究で、喫煙と全身のさまざまな病気との因果関係が示されている

たばこは、火を付けてその煙を吸うことで一時的に満足感を得ることができる嗜好品です。原料はタバコというナス科の植物で、これを刻んで香料を混ぜたものがたばこです。

たばこに火を付けたときに出る煙には3種類あります。(1)喫煙者が吸う「主流煙」、(2)主流煙の一部が体の中に吸収された後に吐き出される「呼出煙」、(3)火を付けた時にタバコの先端から発生する「副流煙」です。

人が呼出煙と副流煙にさらされることを「受動喫煙」と言います。日ごろ受動喫煙をしている人も、喫煙者本人と同じく、たばこによる健康被害のリスクが高まります

たばこの煙には、約200種類の有害物質を含む5300種類以上の化学物質が含まれています。有害物質のうち、70種類以上が発がん性物質として認められています。実は、受動喫煙者がさらされる副流煙には、喫煙者が吸い込む主流煙よりも各種の有害物質が多く含まれていることが分かっています。

たばこに含まれる有害物質は、「ニコチン」「ニトロソアミン類」「活性酸素」「ダイオキシン類」「一酸化炭素」「ホルムアルデヒド」「アンモニア」などです。発がん性物質であるニトロソアミン類は、特に副流煙に多く含まれています

日本を含めた世界各国の研究により、喫煙によって、さまざまな病気の発症リスクが高まると示されています。がんは、肺がんだけでなく、胃がん、膵臓がん、口腔がん、子宮頸がんなど、さまざまな部位のがんでリスクが高まると分かっています。また、肺がんと並んでたばこを吸う人にとってはなじみの深い「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」という病気にもなりやすくなります。

そのほかにも、虚血性心疾患、脳卒中、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)などの循環器疾患、糖尿病、肺炎、肝臓・膵臓の病気、腎臓の病気など、全身の病気の発症と因果関係が示されています。たばこが健康に良くないことは、明らかなのです。

実際の禁煙成功率とは

ここがポイント!

  • 日本の喫煙者の3人に1人はたばこをやめたいと思っている
  • 1年間の禁煙の成功率は、わずか8%
  • 禁煙治療を受けた場合、禁煙成功率は高くなる
  • 禁煙成功のためには周囲の協力が不可欠

体に悪いのはよく分かっている。でも、依存してしまい、なかなかやめられない。厚生労働省が行った、平成28年国民健康・栄養調査報告では、喫煙をしている国民の約3人に1人は、たばこをやめたいと思っていると示されました。

では、実際に禁煙に成功するのは、チャレンジした人のうち何%なのでしょうか?

大手製薬会社が2008年から2009年にかけて約7000人の日本の喫煙者を対象に行ったインターネット調査によると、1年間の禁煙に挑戦し、成功したのはわずか8%だったそうです。つまり、100人が禁煙にチャレンジしたら、92人は1年経たないうちに結局たばこを吸ってしまう、という統計結果です。

また、米国疾病対策センターが2011年に発表した調査結果では、米国の喫煙者の7割以上が禁煙を望んでおり、そのうちの半数以上が1年間の禁煙に挑戦したものの、成功したのはわずか6.2%だったそうです。

たばこは、個人の意志だけではなかなかやめるのが難しいもののようです。一方で、病院の禁煙治療を受けることで、禁煙の成功率が大きく上がる可能性が、厚生労働省の調査から示されています。

厚生労働省が平成21年度に行った診療報酬改定結果検証に係る特別調査のうちの、「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」によると、5回の禁煙治療を受け、治療終了の9カ月後に禁煙が継続している人の割合は49.1%で、実に2人に1人が禁煙に成功しているという結果でした。

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まとめ

禁煙の成功率が低い原因は、喫煙者の意志の弱さではなく、禁煙が難しくなるようなメカニズムがあるからです。禁煙は、意志の力だけで簡単にできるというものではありません。病院でしっかりとした禁煙治療を行うことは、間違いなく禁煙成功への近道となります。また、禁煙を成功させるために忘れてはいけない大切なポイントは、「周囲の協力」です。大切な人をたばこの健康被害から守るために、家族や友人などが禁煙を始めたら、ライターや灰皿を目につかない場所に移動させたり、たばこ以外の気分転換を一緒に考えたり、自分も喫煙をしているなら一緒に禁煙を始めたりして、温かい気持ちで禁煙を応援しましょう。

参考

禁煙ガイドライン|日本循環器学会
喫煙|eヘルスネット厚生労働省
ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書(pdf資料)|厚生労働省
国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
日本禁煙学会編『禁煙学 改定3版』(南山堂)
医歯薬出版株式会社『臨床神経解剖学』
Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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