糖尿病性神経障害とは|メカニズムから症状・治療法まで解説します

糖尿病性神経障害は、糖尿病の特有の三大合併症の一つです。神経障害は、運動神経と感覚神経が障害されるため、痛みに鈍感になり小さな怪我をしても気づきにくくなります。そこから感染を起こした場合には、壊死が進行し足の切断を選択せざるを得ない状況に至るケースもあります。ここでは、糖尿病性神経障害が発症するメカニズム、起こりやすい症状、発症させないための予防法などを解説していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01糖尿病性神経障害のメカニズム
  2. 02糖尿病性神経障害の症状
  3. 03糖尿病性神経障害の治療法
  4. 04糖尿病性神経障害の予防法
  5. 05まとめ

糖尿病性神経障害のメカニズム

ここがポイント!

  • 糖尿病性神経障害は、糖尿病特有の三大合併症の一つである
  • 食事から摂取した「ブドウ糖」は、末梢神経の「シュワン細胞」に取り込まれ、「アルドース還元酵素」により「ソルビトール」という物質に変換される
  • 高血糖で「ソルビトール」が過剰に増えて細胞に溜まると、神経細胞にダメージを受け様々な神経障害が起こる

糖尿病特有の合併症には、「糖尿病性神経障害」「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」があり、三大合併症といわれています。ここでは、「糖尿病性神経障害」について説明していきます。

糖尿病性神経障害とは

「糖尿病性神経障害」とは、糖尿病の合併症の一つです。糖尿病性神経障害は進行してしまうと、痛みなどの鈍感になり、足のちょっとした怪我などに気づきにくくなります。足の怪我から感染を起こし、細胞が死んでしまう「壊疽(えそ)」を起こすと、足自体の切断をしなければいけなくなることもあるのです。足の切断は、生活の質(QOL:Quality of life)も大きく低下させてしまいます。

糖尿病性神経障害のメカニズム

糖尿病性神経障害の発症には「ポリオール代謝活性」が影響していると考えられています。
私たちが食事などで摂取した「ブドウ糖」は、末梢神経の「シュワン細胞」に取り込まれると、「アルドース還元酵素」により「ソルビトール」という物質に変換されます。

「ソルビトール」は健康な人ならエネルギーに変換され、体内で使われていきます。しかし、高血糖の場合は「ソルビトール」が過剰に作られてしまい、細胞に溜まっていきます。この代謝経路を「ポリオール経路」といい、神経障害の原因と考えられています。
過剰に作られた「ソルビトール」が細胞に溜まっていくと、次第に神経細胞がダメージを受け、「糖尿病性神経障害」を発症します

参考

糖尿病診療ガイドライン2016
日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド2016~2017
高血圧症発症チェック

糖尿病性神経障害の症状

ここがポイント!

  • 糖尿病性神経障害は、「多発神経障害」と「単神経障害」にわけられる
  • 多発神経障害の頻度が高く、感覚神経、運動神経、自律神経などに障害が起こる
  • 神経障害の症状は、足先や足裏から現れることが多く、進行するにつれて手先にも現れてくる
  • 主な症状は、しびれ、疼痛、感覚低下などある
  • 感覚低下により足の小さな怪我に気づきにくくなる

糖尿病神経障害は2つに分けられる

糖尿病性神経障害は、「多発神経障害」と「単神経障害」の2つに分けられます。

多発神経障害は、糖尿病性神経障害の中で最も頻度が高いもので、「感覚神経障害」「運動神経障害」「自律神経障害」などを含んでいます。多発神経障害は、左右対称に体の中心から遠い部分(手足など)から生じます。一方、単神経障害は、局所性で、脳神経障害、体幹・四肢の神経障害、糖尿病筋萎縮などが含まれています。

ここでは、発症頻度頻度の高い「多発神経障害」の症状について解説をしていきます。

糖尿病性神経障害の症状

感覚障害、運動神経障害

糖尿病性神経障害が進行すると、感覚神経や運動神経が障害されて、さまざまな症状が現れます。症状は、足先や足裏から出ることが多く、進行するにつれて手先にも現れてきます。

主な症状には、しびれ、疼痛、足の乾燥、亀裂、胼胝(べんち)、潰瘍などの「足病変」、感覚低下、感覚異常、アキレス腱反射低下、こむら返りなどがあります。足病変は、進行していくと、組織が死んでしまう壊疽(えそ)状態になったり、感染を合併すると足を切断しなくてはいけないこともあります。

糖尿病足病変を予防するためのフットケア

足病変を予防したり、悪化させたりしないためには、日頃のフットケアが重要です。足に傷がないかを日々確認し、足のケアを怠らないようにしましょう。
医療機関によっては「フットケア」を積極的に行っているところもあり、糖尿病専門の看護師による、爪やたこなどの処置から日常生活で気を付けるポイントなど、足の健康について細やかまなケアや指導を受ける事もできます。フットケアの方法に不安がある方は、一度医療機関で相談してみてはいかがでしょうか。
足のことで詳しくは糖尿病性足病変とは|足の切断を防ぐためのフットケア方法や治療法を解説をご参照ください。

自律神経障害

自律神経は、身体を活発に動かすときに働く「交感神経」と、身体を休めるときに働く「副交感神経」に分けられ、その2つがシーソーのようにバランスをとっています。自律神経は、脳だけでなく、全身の臓器に関わる神経であり、体温の調節や血圧の維持なども担っています。
そのため、自律神経のバランスが乱れてしまうと、発汗異常、起立性低血圧、瞳孔異常などの症状や、消化器症状(下痢、難治性便秘)、神経因性膀胱(排尿障害)、勃起障害(ED)など、全身に様々な症状が起こることがあります。

無自覚低血糖により突然倒れてしまう場合もある

糖尿病の治療をしている人は特に「無自覚性低血糖」に注意が必要です。通常、低血糖になったら交感神経が働き、汗をかいたり、脈が早くなったり、手足が震えるといった症状が出現します。しかし、糖尿病性神経障害が進行した人は、自律神経に障害があるため交感神経が働かず、「低血糖」が起きても症状が出ません。よって、自分では気がつかず突然意識を失って倒れてしまうことがあります。無自覚性低血糖を起こさないために、普段から「自己血糖測定」をこまめに行い、十分な低血糖への注意が必要になります。

糖尿病性神経障害の約半数の人は自覚症状がない

糖尿病性神経障害の症状について解説してきましたが、約半数の人はこれらの自覚症状を感じない場合もあるとされています。また、糖尿病の方は「心筋梗塞」「不整脈」を起こすリスクが高いですが、神経障害があると自覚症状に気づきにくくなり、重症化するまで発見されにくいです。そのため、早期発見するためにも、定期的な受診は怠らないようにしましょう。

参考

糖尿病診療ガイドライン2016
日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド2016~2017
自律神経失調症|厚生労働省e-ヘルスネット

糖尿病性神経障害の治療法

ここがポイント!

  • 糖尿病の治療が基本であり、血糖コントロールの改善は糖尿病性神経障害の発症や進行予防に効果的である
  • 「アルドース還元酵素阻害薬」は糖尿病性神経障害に関わる「ソルビトール」の生産を抑える効果があり、神経障害の悪化を抑制する
  • 痛みに対しては、重症度に応じて飲み薬が使われる

ここでは、糖尿病性神経障害の治療法をいくつか解説していきます。

糖尿病性神経障害の治療.png

血糖コントロール

血糖コントロールの改善は、糖尿病性神経障害の発症や進行の予防に重要です。
実際に血糖コントロールの効果を調べた研究は複数あります。例えば、アメリカでは1型糖尿病1,441人を対象に「治療を強化したグループ」と「従来の治療を続けたグループ」分け、6.5年間糖尿病の経過する研究が行われました。
結果として、研究終了時に糖尿病性神経障害を発症していた割合は、従来の治療を続けたグループが13%であったのに対して、治療を強化したグループは5%と低い結果が出たのです。このように、血糖コントロールは糖尿病性合併症の予防にも効果があると医学的に認められています。
血糖コントロールの方法には、食事療法、運動療法、薬物療法などがありますが、糖尿病の状態によって異なります。医師と相談しながら、治療を続けて行きましょう。

糖尿病の治療について詳しくは、【糖尿病の治療法とは】1型糖尿病と2型糖尿病に分けて解説します をご参照ください。

薬物治療

神経障害の治療には、糖尿病性神経障害に関わる「ソルビトール」の生産を抑える働きがある「アルドース還元酵素阻害薬(エパレルスタット)」が効果的であるとされています。アルドース還元酵素阻害薬には、神経障害の自覚症状の改善、神経機能の悪化を抑制することが報告されています。

疼痛管理

痛みなどの症状がある場合は、日常生活に支障をきたすこともあるため、その症状を解消するための対症療法が行われます。
痛みが強い場合には、鎮痛効果がある薬での治療が行われ、その重症度によって使用される薬の種類は変わります。糖尿病の診療ガイドライン2016によると、疼痛が軽症の場合は「非ステロイド性消炎鎮痛薬」が第一選択薬となり、中等症以上の場合は「三環系抗うつ薬」「プレガバリン」「デュロキセチン」などが使用されます。

参考

糖尿病診療ガイドライン2016
日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド2016~2017
高血圧症発症チェック

糖尿病性神経障害の予防法

ここがポイント!

  • 血糖コントロール
  • たばこやアルコールは糖尿病性神経障害の発症のリスクを上げるため、禁煙、節酒を目指そう
  • 年に一度は健康診断を受け、早期に糖尿病を発見できるようにしよう
「糖尿病性神経障害」にならないための予防法をについて解説していきます。

糖尿病神経障害の6つの要因

糖尿病神経障害の発症や進行には、主に以下の6つの要因が関連していると考えられています。

糖尿病神経障害の発症・進行に関わる要因
①血糖コントロールの不良
②糖尿病を発症してからの期間
③高血圧
④脂質異常
⑤喫煙
⑥飲酒

これらの6つの要因のうち、血糖コントロール不良が最も影響を与える要因であり、高い頻度で糖尿病性神経障害を発症するとされています。

糖尿病性神経障害の予防は血糖コントロールが重要

糖尿病の合併症は、高血糖状態が続き全身の血管がダメージを受けることで発症し進行していきます。そのため、糖尿病性神経障害を予防するには、糖尿病治療の基本である「血糖コントロール」を行うことが重要です。内服治療やインスリン治療を受けている方は、医師の指示に従い、用法用量を守ることはもちろんですが、食生活を見直したり、運動をする習慣をつけたりと生活習慣の改善も合わせて行いましょう。

また、糖尿病予備軍の方は、生活習慣を十分に気を付けることが出来れば、健康な人と同じ数値まで血糖値を下げることができ、糖尿病の発症自体を予防することもできます。

糖尿病の食事や運動については糖尿病にならないための対策とは|食事・運動・サプリなどの予防法をご紹介
【糖尿病予防の運動方法とは】血糖値を下げるのに効果的な運動をご紹介などの記事もご参照ください。

定期的な検査を受けましょう

糖尿病や合併症である糖尿病性神経障害は、自覚症状がなく進行していきます。そのため、早い段階で自分で気づくことは困難なため、定期的な検査が重要になるのです。今は健康な人であっても、年に一度は健康診断を受けるようにしましょう。

参考

糖尿病診療ガイドライン2016

まとめ

糖尿病の三大合併症の一つである「糖尿病性神経障害」について説明してきました。糖尿病性神経障害は、感覚神経、運動神経、自律神経が障害され、手足の末端や全身の臓器にさまざまな症状を引き起こします。糖尿病性神経障害の予防には、血糖コントロールが最も大切と言われています。毎日の飲み薬や、インスリン治療をしっかり行うと同時に、食生活や運動習慣にも気をつけましょう。糖尿病の人は、このような神経症状が起こりやすいということを知った上で、発症の予防と進行を防ぐことが大切です。
Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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