高血圧ワクチンとは|ワクチンが血圧を低下させる仕組み、現在の治験の情報までを解説

高血圧の治療ワクチンは、大阪大学とアンジェス社が共同開発中の新しいタイプの降圧剤です。高血圧のラットに、高血圧ワクチンを注射すると、半年間降圧効果が持続されたことが報告されており、このワクチンが実用化されると、毎日降圧剤を服薬する負担から解放されることが期待されています。ここでは、高血圧の治療ワクチンの降圧効果や、日本で実用化される可能性などについて解説していきます。

Okada
岡田 里佳 医師監修
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

目次

  1. 01現在開発されている高血圧ワクチンとは
  2. 02高血圧ワクチンの治験が海外で進められている
  3. 03まとめ

現在開発されている高血圧ワクチンとは

ここがポイント!

  • ワクチンとは、病原体から作られた成分を接種することで、その病原体に対する抗体を作らせる作用をもつもの
  • 高血圧のワクチンとは、体内の血圧を上げる成分に対する抗体を作らせ、血圧を下げる作用をもつ
  • ラットにおける研究では、降圧効果が少なくとも半年間持続したと報告されている
  • 高血圧ワクチンは、降圧治療中の服薬の負担を軽減させ、血圧の日々の変動を無くし、心血管疾患のリスクをさげる目的で開発された

大阪大学とアンジェス社が共同で、高血圧の治療ワクチンの開発を進めています。ここでは、高血圧のワクチンの正体についてみていきましょう。

そもそもワクチン意味とは

感染症にかかるリスクを下げるために、赤ちゃんや子供はたくさん予防接種を受けますよね。それらの予防接種で使用される薬を「ワクチン」と呼びます。
病気にかかる前に、ワクチンの予防接種を受けることで、その病気に対する「抗体」が身体の中に作られ、体内に免疫が出来ます。そのため、病原体が体に侵入してきたとしても、すでに抗体が作られているため、発症あるいは重症化を予防することが出来るのです。

日本で摂取可能なワクチンの種類

ワクチンには様々な種類があり、法律に基づいて市区町村が主体となって実施する「定期接種」と、自分で希望して受ける「任意接種」があります。対象となる年齢は政令で規定されていて、その年齢に該当しない人は任意での接種となります。
下記の表では、国立感染症研究所のホームページにある日本で接種可能なワクチン(2016年10月1日)をご紹介します。

<定期接種>
BCG
麻疹・風疹混合 (MR)
麻 疹 (はしか)
風 疹
水 痘
百日咳・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ混合 (DPT-IPV)
ポリオ (IPV)
ジフテリア・破傷風混合トキソイド (DT)
日本脳炎
肺炎球菌 (13価結合型)
インフルエンザ菌b型 (Hib)
B型肝炎
ヒトパピローマウイルス (HPV)
インフルエンザ
肺炎球菌

<任意接種>
流行性耳下腺炎 (おたふくかぜ)
ロタウイルス
黄 熱
破傷風トキソイド
成人用ジフテリアトキソイド
A型肝炎
狂犬病
髄膜炎菌

高血圧のワクチンとは

通常ワクチンは、病気の発症や重症化予防を目的としているため、特定の病原体を標的とした抗体を作らせる作用があります。高血圧のワクチンは、血圧をあげる分子である「アンジオテンシンⅡ」を標的に抗体を作らせます。抗体が産生されることで、アンジオテンシンⅡの濃度が低下するため、収縮期血圧収縮期血圧(しゅうしゅくきけつあつ)心臓が縮んで、全身に血液を送り出すときに血管にかかる圧力。血圧を測定した時の最大の値のこと。(上の血圧)の低下が長期間持続する仕組みです。

「アンジオテンシンII」とは

「アンジオテンシンII」とは、血圧を上げる働きがある物質です。私たちの体には「レニン・アンジオテンシン系(RA系)」と呼ばれる、血管を収縮させて血圧を上げる一連の仕組みが備わっています。この仕組みでは、肝臓で作られた「アンジオテンシノーゲン」という物質を、数種類の酵素が何度か分解して形を変え、最終的に血圧を上昇させる物質である「アンジオテンシンII」に変換します。

高血圧ワクチンの効果とは

大阪大学の郡山弘寄附講座助教、中神啓徳寄附講座教授、森下竜一寄附講座教授らの研究グループは、高血圧のラット対して高血圧ワクチンを投与し、その降圧効果を調べました。結果として、降圧効果が少なくとも半年間持続し、投与していないラットに比べて生存期間も延びたことがわかりました。

高血圧ワクチンの安全性

高血圧ワクチンを投与すると、自分を守るはずの「免疫システム」が正常に働くなる「自己免疫疾患」の副作用が起こることが危惧されます。しかし、大阪大学が行ったラットにおける研究では、ワクチンに使用した「アンジオテンシンII」は非常に短く、細胞障害性T細胞に認識される配列を持たないため、有害な細胞性の自己免疫反応は起こらず安全性が高い、といえると報告されています。

高血圧ワクチンが開発された背景

降圧治療中の服薬の負担を軽減させるため

生活習慣の改善だけで血圧が下がらない場合は、降圧薬治療を開始し、薬の力で血圧を下げる必要があります。薬の効果は一時的なものであり、毎日飲まなければなりません。しかし、降圧薬を飲み忘れてしまう方もいます。一度接種すれば効果が長続きする高血圧ワクチンなら、薬の管理の負担を減らすことが期待されます

血圧が安定する

降圧薬は血圧を下げますが、高血圧がそれだけで治るわけではありません。降圧薬の服薬を止めてしまうと、血圧はまた上昇し、心筋梗塞心筋梗塞(しんきんこうそく)心臓に必要な酸素や栄養素を送る血管が、詰まったり、血管径が細くなることで、送られる血液量が減り、心臓を動かす筋肉が死んでしまった状態。典型的な症状としては、締め付けられるような胸の痛みが30分以上持続する。高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病や喫煙が危険因子とされている。脳梗塞脳梗塞(のうこうそく)脳の血管が詰まったり、細くなったりして、必要な酸素や栄養素が送られず、脳の細胞が死んだり、障害を受けてしまう状態。障害された脳の部位によって、様々な症状(麻痺や意識障害なぢお)が起こる。といった「心血管疾患」のリスクを上げてしまいます。高血圧の人の中には、「仕事が忙しくて、病院に行って薬をもらう時間がない」といった理由などで、治療を中断してしまう人も多いのですが、高血圧ワクチンにより、血圧の変動が安定することで、心血管疾患のリスクを減少させることも期待されます

将来的に国の医療費の削減が期待される

平成27年度に厚生労働省が行った「国民医療費の概況」によると、国民医療費は42兆3,644 億円と発表されています。これは、前年度の40兆8,071億円に比べ1兆 5,573億円の増加となっています。 一人当たり年間33万 3,300円、前年度の32万1,100円に比べ1 万2,200円の増加となっています。

毎日の服薬の負担が軽減される「高血圧ワクチン」が出来れば、薬の飲み忘れなどで病気が悪化し重い合併症を起こす人も減り、将来的に医療費を抑えることが期待されます。

参考

厚生労働省|予防接種情報
NIID 国立感染症研究所
厚生労働省|平成27年度 国民医療費の概況
日本高血圧学会|高血圧治療ガイドライン2014
大阪大学|高血圧ラットの降圧を半年間持続させることに成功
Hiroshi Koriyama et all.Long-Term Reduction of High Blood Pressure by Angiotensin II DNA Vaccine in Spontaneously Hypertensive Rats.2015
あなたに合わせた生活・食事指導で高血圧改善

高血圧ワクチンの治験が海外で進められている

ここがポイント!

  • オーストラリアで、人に対する治験が2018年4月より開始された
  • 日本ではまだ人を対象とした治験は行われていない
  • オーストラリアの治験に成果が出れば、日本での治験が行われる

オーストラリアにて治験が開始

人に対する治験が、2018年4月よりオーストラリアで開始されました。この治験にて、動物実験で得られた効果が、人を対象にしても得られるのか、また、副作用を起こさずに安全に使用できるのか検証されます。オーストラリアの治験で成果が得られれば、早くて5年以内の実用化が見込まれており、今後に注目されています。

治験とは

「治験」とは、新しい医薬品候補の開発の最終段階で、効き目があるかどうか人に対して実施される試験です。日本で販売されている医薬品は、厚生労働省の承認を得て、その効果と安全性が確認されたものです。動物実験で十分な効果や安全が確認されてから、人に対する治験が行われ、そこで得られた成績を厚生労働省が審査します。病気の治療に必要でかつ安全に使用できることが医学的に証明された薬のみが、承認を受けることができるのです。

参考

大阪大学|高血圧ラットの降圧を半年間持続させることに成功
厚生労働省|治験

まとめ

高血圧の原因は様々であり、高血圧ワクチンが全ての人に効果があるとはいえない可能性はありますが、降圧薬の服薬頻度を減らすことが出来るようになれば、治療の負担が軽減される人も多いでしょう。現在は海外での治験が行わていますが、今後日本での実用化までの進展が注目されます。

Okada
岡田 里佳 医師
TMクリニック院長、日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本内科学会認定 認定内科医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医

プロフィール

2008年名古屋市立大学医学部卒業。内科を中心に初期研修を行い、その後皮膚科へ進む。大学病院での勤務を経て、皮膚疾患を合併しやすいアレルギー・膠原病診療を経験するため、約3年間内科医として勤務。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本内科学会認定内科医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医を取得。2017年11月、誰にでも最適な医療を提供するためTMクリニック 皮フ科を開設。

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