【円形脱毛症とストレスについて】関連性を医学的な観点から解説します

円形脱毛症は突然髪の毛が抜ける病気で、原因はまだ完全に解明されてはいませんが、ストレスが引き金であると考えている人は少なくありません。円形脱毛症は、主に円形状に脱毛するためこの名称が付けられています。男性と女性、また年齢による発症しやすさに違いはなく、全ての人に発症する可能性があります。ここでは、医学的根拠をもとに円形脱毛症とストレスの関連性について解説します。

Ito
伊藤恭太郎 医師監修
日本救急医学会救急科専門医

目次

  1. 01ストレスが円形脱毛症に及ぼす影響
  2. 02ストレスの度合いによって影響の大きさや発症する時期は変わるのか
  3. 03ストレスが関連する可能性を示す報告と十分な医学的根拠があるとは言えない理由
  4. 04円形脱毛症が出来る場所とストレスの関連性
  5. 05ストレスがない人も発症するのか
  6. 06診断書には「ストレスが原因」と書いてもらえるのか
  7. 07円形脱毛症のストレス以外の要因
  8. 08まとめ

ストレスが円形脱毛症に及ぼす影響

ここがポイント!

  • 円形脱毛症の主な原因は「自己免疫応答」と考えられている
  • 過剰なストレスは自己免疫応答の引き金になり、円形脱毛症につながると考えられている

ストレスは、円形脱毛症の主な原因である「自己免疫応答」に影響する可能性があると考えられています。ここではそのメカニズムについて解説をします。

ストレスの影響が考えられている「自己免疫応答」とは

円形脱毛症を引き起こす原因は、いまだに不明な点が多く、世界中の多くの研究者が解明に向けて研究を続けています。そうした中で、現在最も有力と考えられている原因は「自己免疫応答」で、日本皮膚科学会が作成した円形脱毛症の診療ガイドラインにも、そのように記載されています。

この「自己免疫応答」にストレスが影響する可能性があると考えられているわけですが、そのメカニズムを理解するために、ここで自己免疫応答について簡単に解説をしておきます。

自己免疫応答とは

「免疫」とは、体に侵入してきた病原体などを「自分の体の成分ではない」と見分けて攻撃・排除し、病気になるのを予防したり、病気から回復させたりする仕組みです。「自己免疫応答」とは、免疫異常の1つで、攻撃対象となる「自分自身とは違う異物」をきっちりと見分けることが出来なくなり、間違って自分の正常な細胞を攻撃してしまうようになった状態です。攻撃された組織や臓器は正しく機能出来なくなってしまうため、自己免疫応答は体の不調につながります。

自己免疫応答により円形脱毛症が発症する仕組み

円形脱毛症では、自己免疫応答によって髪の毛の成長に重要な「毛乳頭細胞」が攻撃されてしまい、その結果髪の毛が抜けてしまうと考えられています。

自己免疫応答による脱毛の仕組みについて詳しくは「【円形脱毛症の主な原因について】免疫の病気からストレスの関与などまで、発症メカニズムを正しく理解しよう」をご参照ください。

ストレスが自己免疫に影響するメカニズム

それでは、ストレスが自己免疫応答にどのように影響すると考えられているのか、そのメカニズムについて見ていきましょう。

ストレスから体を守っているのが「内分泌」「自律神経」「免疫」

脳がストレスを感じると、脳の「視床下部」からホルモンが分泌されることで「内分泌」と「自律神経」の2種類の仕組みが働きます。それらの2つがバランス良く働くことによって免疫機能が活発になり、ストレスによる不調や病気から体を守っています。

過剰なストレスは自己免疫応答を引き起こす

ところが、ストレスが強かったり、長く続いたりすると、本来ならストレスによる悪影響を防ぐための「内分泌」と「自律神経」の働き、つまり、ホルモンや神経に働く物質のバランスが崩れてきます。すると免疫機能が正常に働かなくなり、その結果自己免疫応答が起こると考えられています

影響すると考えられているストレスの種類

一般的にストレスというと、不安や悩みなどの精神的なストレスを想像する場合が多いと思われますが、診療ガイドラインの中で、円形脱毛症に関連すると記載されているストレスは「精神的ストレス」だけではなく、「身体的ストレス」もあります。以下に円形脱毛症に影響する可能性のあるストレスの具体的な例を挙げます。

円形脱毛症に影響する可能性のあるストレス
ストレスの種類 具体例
身体的ストレス 病気、睡眠不足、疲労、温度などの環境 など
精神的ストレス 不安、悩み、人間関係、仕事 など

参考


脱毛症診断チェック

ストレスの度合いによって影響の大きさや発症する時期は変わるのか

ここがポイント!

  • 現在ではストレスが円形脱毛症の明らかな原因とはいえない

円形脱毛症の原因は完全に解明されていはいませんが、「自己免疫応答」という免疫の異常が原因として最も有力であると考えられています。ストレスは、自律神経と内分泌のバランスを崩し、自己免疫応答の引き金になる可能性があると円形脱毛症の診療ガイドラインに記載されています。
そこで、ストレスが強いと円形脱毛症になりやすく、また脱毛の範囲も広くなると想像する人もいるかもしれませんが、ストレスの強度やストレスを受ける頻度が円形脱毛症の発症にどのような影響を与えているのかは、今のところ研究報告がなされておらず、まだ解明されていません。また、ストレス受けてからどのくらいの時期に発症するかについても同様です。

円形脱毛症とストレスの関連性について医学的な解明がされていない理由は、次の章で詳しくお話ししていきます。

参考


ストレスが関連する可能性を示す報告と十分な医学的根拠があるとは言えない理由

ここがポイント!

  • ストレスが円形脱毛症につながる可能性を示した論文報告は複数ある
  • 医学的根拠を以ってストレスが確実に円形脱毛症につながると示した報告は今のところない
  • その理由は、今のところストレスを一定の尺度で評価するのが困難なため

ここでは、円形脱毛症とストレスの関連性について、診療ガイドラインに引用されている論文の内容を確認していきましょう。

引用されているのは関連の「可能性」を示した論文

前の章で、円形脱毛症の主な原因は「自己免疫応答」と考えられており、また自己免疫応答にストレスが影響する可能性があることから、円形脱毛症の発症に対するストレスの影響が考えられているとお話ししてきましたが、これらのメカニズムについて、十分な医学的根拠が示されている研究や論文は今のところ報告されていません。一方で、根拠につながる「可能性」を示している論文は複数報告されており、その中のいくつかは円形脱毛症の診療ガイドラインに引用されています。それらの内容を確認してみましょう。

関連性を直接調べた研究

米国ミネソタ大学の精神科の研究グループは、円形脱毛症の31人を対象に、対面で質問をすることにより、精神的ストレスの有無を調査しました。その結果、気分の落ち込みなどの抑うつ状態と円形脱毛症には統計学的に関連性が見られなかったものの、対象者のうち74%の人が、うつ病や不安障害などの精神疾患であると診断を受けたことがあると分かりました。

催眠療法の効果を調べた研究

ベルギーのブリュッセル自由大学病院の皮膚科の研究グループは、通常の円形脱毛症治療を行っても十分な効果が見られなかった重症の円形脱毛症の人に対して5年間催眠療法を行い不安や抑うつ状態を改善しました。その結果、12人中9人で脱毛範囲が縮小したと報告されていますが、調査対象となった人数が少なかったことなどから、日本皮膚科学会はこの研究結果について科学的根拠が弱いとしています。

トルコ大地震の影響を調べた研究

トルコのアバントイゼットバイサ大学の皮膚科の研究グループは、大地震によるストレスで円形脱毛症の発症率や重症度などが上がったかどうかを調べました。その結果、地震の前後で発症率や重症度などの割合に違いは認められず、ストレスは円形脱毛症を引き起こす唯一の原因とは言えないと報告しました。

根拠が乏しい理由

こうした論文報告の結果を踏まえた上で、日本皮膚科学会は、ストレスが円形脱毛症に関与しているとする医学的根拠が今のところ十分でない理由として、ストレスの定義や評価方法が曖昧である点を挙げています。例えば、同じような出来事があったとしても、人によってストレスの感じ方は異なりますし、また同じ人が繰り返して同じような体験をした場合でも、その時のさまざまな条件でストレスの感じ方は変わるため、今のところ「ストレス」を正しく評価出来る一定の尺度を設けて比較することは難しいのです。

参考


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円形脱毛症が出来る場所とストレスの関連性

ここがポイント!

  • 円形脱毛症の診療ガイドラインには、ストレスによって脱毛する部位に違いが出るといった記載はない


円形脱毛症は、人によって脱毛する場所や範囲が異なります。円形脱毛症は「髪の毛の一部が丸く脱毛してしまう病気」というイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。実は、円形脱毛症は症状によって腕や足や眉毛など、全身の体毛に脱毛が及ぶ可能性がある病気なのです。
また、円形脱毛症の脱毛パターンは4つあります。頭部に円形の脱毛部位が出来る「通常型円形脱毛症」、脱毛範囲が頭部全体に広がった「全頭脱毛症」、脱毛が全身に拡大した「汎発性脱毛症」、生え際が帯状に脱毛する「蛇行状脱毛症」があります。前の章でも解説しましたが、ストレスと脱毛症の関連性についての論文報告は複数ありますが十分な医学的根拠はありません。。そのため、円形脱毛症の診療ガイドラインにも、ストレスによって脱毛する部位に違いが出るといった記載はありません。

参考


ストレスがない人も発症するのか

ここがポイント!

  • ストレスはあくまでも誘因のひとつであり、直接の原因ではない
  • 円形脱毛症は原因が解明されていないため、ストレスを受けていない人でも発症する可能性はある

円形脱毛症の原因は完全に解明されていません。ストレスは、原因として最も有力とされている「自己免疫応答」を引き起こす引き金となると考えられています。円形脱毛症は「自己免疫応答」以外にも「自己免疫疾患」「アトピー素因」「遺伝」などが要因として考えられています。
自己免疫疾患は,橋本病に代表される「甲状腺疾患」「尋常性白斑」「SLE(全身性エリテマトーデス)」「関節リウマチ」あるいは「重症筋無力症」などがあり、円形脱毛症が併発しているケースが報告されています。「アトピー素因」などの、アレルギー体質も関連すると考えられています。これらの要因がある人が、必ずしも発症するとは限りませんが、円形脱毛症になりやすい可能性はあるといえるでしょう。円形脱毛症は、原因自体が解明されていない病気ですので、何が発症の引き金になるかは分かっていません。そのため、ストレスを全く受けていない人でも発症する可能性はあるといえます。

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脱毛症診断チェック

診断書には「ストレスが原因」と書いてもらえるのか

ここがポイント!

  • 必ずしも書いてもらえるとは限らない
  • その理由は、円形脱毛症とストレスの関連性について医学的根拠が十分でないため

診断書は、医師がその人の病気やけがなどの体の状態や治療にかかる期間などを証明するための書類で、仕事の休職や保険の申請などの際に必要となるものです。円形脱毛症はストレスによって引き起こされる「可能性」があるわけですが、例えば仕事で強いストレスを感じている中で円形脱毛症になり休職の申請をしたい場合、医師に状況を伝えれば診断書に「ストレスが原因」と書いてもらえるのでしょうか。

日本皮膚科学会は診療ガイドラインにおいて、「円形脱毛症の人の精神的背景を考慮した治療を行うのは重要」としているものの、「安易に円形脱毛症とストレスの関与を言うべきではない」としています。その理由はやはり、円形脱毛症と精神的ストレスの関連性について、医学的根拠が十分でないためです。

ストレスが原因と記載するかどうかは医師の判断となりますが、必ずしも記載してもらえるとは限らないと知っておきましょう。

診断書は公的な文書であり、当たり前ですが嘘は書けません。しかし、ストレスの感じ方は個人により異なります。また、脱毛症になったことでストレスを感じ、何らかの心の病気になる方もいらっしゃいます。診断書を希望する際は、しっかりと自分の現状を主治医に伝えるようにしましょう。

参考


円形脱毛症のストレス以外の要因

ここがポイント!

  • 円形脱毛症に関連する可能性のあるストレス以外の要因は「自己免疫疾患」「アトピー素因」「遺伝」
  • これらの要因は調査結果に基づいたもので、因果関係はまだ完全には解明されていない

ここまで「ストレスが引き金となって生じた自己免疫応答による円形脱毛症」を見てきましたが、最後に、円形脱毛症の発症に関連するストレス以外の要因について、簡単に確認をしておきましょう。

円形脱毛症の診療ガイドラインでは、円形脱毛症に関連する可能性が高い要因として「自己免疫疾患」「アトピー素因」「遺伝」を挙げています。これらの要因は全て、円形脱毛症の人の中で比較したところ、要因を持っている人の割合の方が持っていない人よりも多かったという調査結果に基づいて可能性が考えられているもので、円形脱毛症の発症につながるメカニズムが完全に解明されているというわけではありません。

自己免疫疾患

自己免疫応答によって臓器が障害されて発症する病気を「自己免疫疾患」と言い、甲状腺疾患や尋常性白斑などがあります。米国の研究では、円形脱毛症の人の8%に甲状腺疾患、4%に尋常性白斑の合併が見られたと報告されています。

アトピー素因

アトピー素因はアトピー性皮膚炎などのアレルギーを起こしやすい体質のことで、日本の大分大学の研究では、円形脱毛症である47人の人のうち、61%程度がアトピー性皮膚炎などのアトピー疾患を合併していたとする結果が出ています。

遺伝

遺伝に関しては、中国や米国で行われた調査によって、家族内に円形脱毛症の人がいる場合はそうでない場合に比べて円形脱毛症に一定の割合でなりやすいという報告がなされています。

円形脱毛症とこれら3つの要因との関連性について詳しくは「【円形脱毛症の主な原因について】免疫の病気からストレスの関与などまで、発症メカニズムを正しく理解しよう」をご参照ください。

参考


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まとめ

ストレスと円形脱毛症の関連性について、その医学的根拠を確認しながら見てきました。
円形脱毛症の原因についてはいまだに解明されていない部分が多いものの、現時点では、髪の毛の細胞に対して起こる「自己免疫応答」とする考え方が最も有力であり、他にも「自己免疫疾患」「アトピー素因」「遺伝」などの要因の関与が考えられています。
原因として有力視されている自己免疫応答を起こす引き金になる可能性が考えられているのが「ストレス」で、その可能性を示す医学論文は複数報告されています。しかしストレスは、今のところ定義や評価方法が確立されておらず、明確な尺度を設けての比較が困難であることから、十分な医学的根拠が得られていないというのが現状です。一方で、ストレスと円形脱毛症の関連性についての研究は、世界各国で進められており、今後の解明に期待が寄せられます。

円形脱毛症・前頭脱毛症などの脱毛症でお悩みの方へ

Ito
伊藤恭太郎 医師
日本救急医学会救急科専門医

プロフィール

東北大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院および聖路加国際病院の救命救急センターにて、救急集中治療医として診療に従事。聖路加国際病院では、救急部チーフレジデントを務め、救急科専門医資格を取得。一般内科外来や在宅診療、重症患者への高度救命処置まで、幅広い分野の診療を経験。

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